誕生日、おめでとう

お兄ちゃん・・・・・・。

年の離れた弟をRZ250のタンデムシートに乗せて、富山から能登半島を巡り帰ってきたあの日からもう、四十年になる。帰り道、調子に乗ってバンクさせ過ぎて、バックステップを路肩にすり付け、肝を冷やしたのを思い出すと、今でも胸が痛くなる。当時中学生だった弟は、そうとは露知らず、兄の自分を信じ切って、タンデムシートから腰に手を回したまま、平然としていたっけ。

半島の複雑な海岸線を車でたどりながら、そんな古を思い出していたのは、半月ほど前のこと。いくつになっても出来の悪い弟のことを心配するのが、兄というもの。セキュリティに兄の誕生日を設定していたその弟は、自分の誕生日の今日も、病院の中で過ごしている。枕元で「おめでとう」と声をかけたかったけど、それも叶わないこと。せめてもと看護師に思いを託して、着替えを置いて踵を返す。

できることならその声をもう一度だけ聞かせてほしい。笑いながら「お兄ちゃん」と呼びかける、その声を。