「これ、先週用意してたの」と、冷蔵庫からスポーツドリンクのペットボトルが二本、目の前に差し出された。予期しなかった出来事に、「ありがとう。じゃあこれ、置いていくわ」と、スポーツジャグをテーブルに戻しながらすぐに返事をする。昨夜、たしかに風は吹いたのだ。そうして好日がスタートしたはず、そのはずだったのに・・・・・・始めは、とことんツイてない一日だった。
万全を期していたわけではない。だけれど、最前は尽くしていた。そのはずだったのに・・・・・・最初の20分を走り切らないまま、リズムセクションの最後で、2ストローク85エンジンが、再び息を止めてしまう。予兆はおろか予感すらもなしに・・・・・・。コース脇に避けて何度キックペダルを蹴りつけても、あの甲高く弾けるようなサウンドは、二度と帰ってはこなかった。
パドックに戻ってプラグを外すと、白い碍子が、すっかりチャコールグレーにコーティングされていた。プラグを外す前に、右手でキックペダルが振り抜ける様を見て、周りからも「焼き付き」と診断されているから、そう驚きはない。焼き付く前には、轍にフロントタイヤを取られてハイサイド。“半壊”の左肩が地面に叩きつけられて再脱臼。再び腱が千切れて、鎖骨が飛び出してしまった。
踏んだり蹴ったりとは、、こんな日に言うことだろう。それでも、とぼとぼと俯き帰ることもなく、一日を過ごせたのは・・・・・・ホームコースだから。YZ450Fを手始めに、KX112にTT-R125、CRF150RⅡと、いつもは競り合い走る知り合いたちの愛機を代わる代わるに乗らせてもらい、思いがけず楽しい時間を満喫してしまった。さすがにコースサイドにオーナーが立っていては、派手なライドはご法度だけど、それぞれに興味深く、いい勉強にもなった。
午後、最後のクールを待たずに、壊れたマシンを積み込んで撤収。これで違反切符でも切られたら目も当てられないと、慎重にボンゴを走らせる帰路。途中、手土産を買おうと寄り道したラーメン屋は準備中、生まれ故郷の花火大会にかち合って渋滞にもハマり・・・・・・豊水橋の上、楽しくもあり辛くもあった土曜日が、ゆっくり夕暮れを迎えようとしていた。