何が、何を。

空は朝から夕暮れまで、のっぺりとした鈍色のまま。まるで冴えない気分に塗り込められたかのよう。それでも晴れ間が覗いていれば、上州の山城跡でも眺めに行こうかと、夕べツーリングマップルを繰っていたのだけれど・・・・・・気づけば、遅く起きた朝になっていた。何かが足りないのはわかっている。何かを無くしてしまったのかもしれないと、顧みる時間が無為に過ぎていく。

また砂塵の上に戻る。その時までの雌伏になればと、わずかばかりの腕立て伏せと腹筋を続ける日々。刺激、期待、旅情。どれも足りていない毎日に、いらだつことさえ忘れてしまった。途切れることなど考えもしなかった二輪三昧に、少し休息が要るのだろうか。せめて、ぶ厚いジャケットが要らないうちに馬上に戻れるよう、闇に祈る。虫の音がうるさく響く、今日の宵闇に。

鳥峰

「今度はゆっくり、バイクで来てよ」。備長炭にまかないだろう鮭の切り身を転がす、気さくな声に送られて、裏に返った暖簾をくぐり出る。昨日までの涼風を弾き飛ばした太陽が、まだ南中の近くから、歩道のアスファルトに陽射しを打ちつけている。ゴールウイングとCB1300を侍らせながら、先代の教えを守り抜き、「宵越しの鰻は持たない」と鼻を鳴らずご主人。その手で香ばしく焼き上げた身を、濃いめのたれでいただいた。栃木足利を流れる渡良瀬、そこに架かる橋をまた、越えることにになりそうだ。次は独りで、トリッカーとともに。

忙殺

忙殺された一週間。その間にryoと羽田に行けたこと、YZ125に乗れたこと。そして、何よりコロナワクチンを接種できたことは、奇跡でしかない。夏風邪をこじらせて七転八倒したのは誤算だったけれど・・・・・・。

まだ快癒しない身体を引きずって、再び一週間が始まる。

移ろいの間

垂れた稲穂が西の光にさざめいて、その上を、つくつく法師の声音がわたっていく。絹雲が空の青を刷くように、風が畦を流しては、辺りの暑気をさらっていく。気づけば陽が傾くのも、ずいぶん早くなった。つるべ落としとなるその前に、もうひと暴れしてくれるはずと、天気予報士が微笑んだ。

つかの間

三日というのも、あっという間だ。親子水入らずも今日が最後。早めに到着した空港、その搭乗口でさっと見送り、keiとネロと来た道を引き返していく。「ちょっとさみしいな」。初めてryoのアパートを訪れたとき、帰りしなにつぶやかれたフレーズが、今よみがえる。今度はこちらの番かと。どうやら今宵も、酔いの巡りが早いらしい。