2015-01-01から1年間の記事一覧

今、四季を思う

ひな祭りの日に、東京ドームでKISSと再会。それからひと月もしないうちに、ryoが北の大地へと巣立っていった。構える間もなく息子とバイク仲間を一緒に手放すことになり、絶望と諦観の入り交じった左ヒザを抱え、やる気が消えかけたのは菜の花の季節が終わろ…

やっぱり・・・ 5(完)

<12/28の続き> 木々の根本をすくうように左カーブをなぞり、同じ斜度で今度は下っていく。途中で傾斜のきつくなる下り坂は、その瞬間にタイヤが路面を離れて、ふわっと落ちていく感覚を味わわせてくれる。それでもカラダを後ろに引きながらステップに立ち…

ようやく・・・ 2/2

<12/20の続き> 昨日のご機嫌な感覚を残したまま、第1コーナーのバンクに突っ込んでいく。ブレーキレバーを引く人差し指に、山砂をつかむフロントタイヤの感触が伝わってくる。バンクに少し乗り上げて、そこからマシンを寝かせたまま半ば強引に、続く直線へ…

やっぱり・・・ 4

<12/25の続き> リヤタイヤの回転にうまく絡んでは、真横と正面と、マシンのベクトルを決めてくれる山砂。それでも一線を越えないように、そして、急激には戻さないように。気持ちのまま右手を絞り、半端な左膝をかばいながら踵で地面を蹴飛ばして、カウン…

12月27日

強い北風に、冴えた青空。利根川を渡り、馴染みのある県道をひたすら北に結城へ走る。遠く、筑波山の尻尾も低く北へと延びて、山裾の緑や枯色が瞳に映り込む。締めきった軽自動車の車内には、やわらかな陽射しが眩しくあふれて、頬を赤く染める。冬らしい、…

走り納め

午後3時。最後の20分を知らせるsaitoさんの声が、スピーカーから北風に乗ってパドックへ流れる。ただ、隙間だらけのパドックに、マシンの音は響かない。静かなコースに、にぎわっているのは、かすかに西日の残る洗車場。それも身内の5台が仲良く勢ぞろい。結…

やっぱり・・・ 3

とてつもない勢いで、問答無用に引っ張られるように、そして、弾けるようにして加速する。もはやリヤタイヤが回転しているなんて感覚はない。長く広い直線は、最後に一瞬、折れるようにギャップを作って勾配を軽く上げる。厚みがいくらか淋しくなってしまっ…

やっぱり・・・ 2

<12/19の続き> マディ続きのMX408に、4ストマシンを持ち込んでばかりいたから・・・二つのタイヤが小石を弾くたび、ふわつく車体にカラダが身構える。右手の動きをそのままに、突き抜けるような吹けあがりを見せるエンジン。タイヤの接地感はさらに薄まっ…

バスルームにて

Sweet child in time, you'll see the line. The line that's drawn between good and bad・・・ イアン・ギランがささやき、叫ぶ。 防水仕様の最新スマホは、バスタイムを音で満たしてくれる。特徴的な3連を奏でるギターソロの後、ヴォーカルが主旋律をやわら…

Another New Year

午前6時49分、東の空低く、杏色に染まった一点から、静かにヒカリが立ち上る。朝の空気は騒がしく動いて、すっかり裸になった木の枝を、大きく揺らしている。おかげで畑は土色のまま、シロとネロのリードに絡めた指先も、冷たく凍えることはない・・・。 一…

Hooligan

その面倒くさそうにマイクに向かい、しわがれた声で歌い叫ぶ猫は、太い二本のひげと緑色の瞳を持っていた。メンバーの中で一番年を食った彼が、求める音楽性の違いだけじゃなく、激しいステージアクトについていけないと感じたのは、やっぱり本当のことだと…

ようやく・・・ 1/2

冬至を目前にした日曜日。快晴の空に上る太陽は低いまま、陽射しが林の向こうから斜めに射し込む。新しいMX408には、陽の当たらないコーナーが3つできあがった。強く冷え込んだせいで、黒い陰の延びたその路面は白く光り、足下を冷たく包み込む。「朝一が一…

やっぱり・・・

シートにまたがり、そのまま静かに前へ視線を落とす。パドックにしかれた砂利の上には尖ったフロントフェンダーがまっすぐに延び、いっぱいのヒカリを浴びて橙色が白くきらめいている。アルミ製のキックペダルを引き出す右手には、重さの感覚がひとつも残ら…

ヒビキ 5(完)

クラスメートを乗せるだけで、クラスメートの駆るバイクに乗るだけ。ただそれだけなのに、走っている間ずっと、ブラジャーのカップに包まれ、程良い形に整った胸が、薄いシャツを通して背中を押すのが心地よかった。でも、それだけ。いつもの場所で歩道に乗…

ヒビキ 4

YAMAHAのYの字を模したメーターパネルの中央にニュートラルを示す緑色が点るのを確認してから、幅の広いシートにまたがり、キックペダルに右足をかける。そのままゆっくりと足を下ろすだけで、並列2気筒の2サイクルは、ポロロッとあっけなく目を覚ます。大き…

ヒビキ 3

「空前のバイクブーム」というのは後からわかった話で、そのまっただ中中にいた時分は、ごく当たり前にバイクに乗って、近くの峠を走り回り、まだめずらしかったファミレスのドリンクバーだけを頼んで、出来もしないバンク角に、ひたすら熱を上げていた。そ…

ヒビキ 2

<12/13の続き> 休講になった授業が昼の前後ともなれば、若さにはとてつもなく長い時間を持て余すことになる。東京の西の外れ、広い構内を出て行っても、あるのは動物園と遊園地。仲間が揃えば雀卓を囲むこともできるが、いつも4人揃うとは限らない。たばこ…

313年の時を超えて

「14日といえば、月は変われど殿のご命日」 この件で始まる忠義の仇討ちは、313年前の話。平成の御世も四半世紀を過ぎては、忠義なんて言葉はすっかり無用になってしまったらしい。新聞のテレビ番組にも「忠臣蔵」の文字を見つけるのが難しくなった今だけど…

ヒビキ

「ねぇ、今のヒト、お友だち?」 大垂水峠の文字を見ると、いつも決まって思い出す。少し鼻にかかけるように、走り去るバイクを目で追いながら途切れ途切れにつぶやいた、吐息のようなその声を。 <つづく>

それでも開けて走る 11(完)

ひとつ、気持ちが楽になったから、その分他で苦労をしても、何とか泥に埋もれたコースを回り続けることができた。kyo-chanのおかげだ。閉じて迷って下向いて、それで倒すくらいなら、開けすぎて突っ込みすぎて傾けすぎて、派手に転がる方がいい。そう思って…

それでも開けて走る 10

空から射し込むヒカリも、暗い胸の奥には届かず、音の主役が激しいフルサイズマシンの咆哮に変わったパドックを独り歩いていく。いつものようにnakane兄弟に愚痴を聞いてもらおうと近づくと、二人の隣に居たkyo-chanと、先に目があった。「調子はどう?」の…

それでも開けて走る 9

1周回ってきて、また同じ坂を下るCRFに、まったく勢いはない。いくら回ってきても、うまく駆け下りることができなくて、減速しすぎてジャイロを失ったホイールがマシンを蛇行させては、ふらふらとコースの外へと誘い出す。もしかしたら自分よりも下手な奴は…

それでも開けて走る 8

けしてのぞき見ることはできないけれど、ヘルメットの中、きっとパドックで目にするような涼しい顔で微笑んでいるのだろう。優しく弧の字を描く背中を見れば、よけいなチカラを入れていないのがよくわかる。反対に勢いよく下りきるそのマシンごと視線を奪わ…

それでも開けて走る 7

<12/4の続き> でたらめに刻まれたワダチにかまうことなく、遠慮もなしに全開のまま、CRFを走らせる。濃い褐色の一本が、わずかにフロントタイヤを弾くと、シートに落としていた尻が一瞬、地面に引き込まれるように真下へと引っ張られた。思いの外、緩く広…

そよぐ彩り

城攻めの名手、かの上杉謙信をも大いに悩ませた山城跡に、紅葉が朱くそよぐ。灰色に冬枯れた空の下、凍えたカラダで最後の彩りを愛でる。

冬空の下で

歩行者用の信号が点滅を始めたのに合わせて、クラッチレバーを握りしめ、Dukeのスロットルを全閉にする。そのままブレーキペダルだけで減速を終わらせて、太い停止線の手前にフロントタイヤを止める。昨日の快晴と打って変わって、まだらに広がっていた雲の…

それでも開けて走る 番外編

下り坂からのフープスを抜けて、インフィールドに短い直線が延びる。くっきりとワダチを刻みつけて・・・。

それでも開けて走る 6

全開を受け止めてくれるはずの山砂が雨を吸ってばかりいて、ホームストレートにはもう、何本もの曲線がいびつに描かれていた。陽射しがその陰影を、第1コーナーの手前までずうっと延ばしている。遠く、そのコーナーのバンクを眺めながら右手が止まるまで、一…

それでも開けて走る 5

センタースタンドのストッパーを右足で踏みつけると、湿った砂利の上にCRF150R-Ⅱが音を立てて落ちる。ずしりと揺れるようにマシン全体の重量が、ハンドルバーに添えた左手に伝わる。ヘルメットにゴーグル、グローブもはめて、あとはエンジンを掛けるだけだ。…

それでも開けて走る 4

あえぐマシンの音が消えて、10分の間、コースの上が静かになる。ホイールごと泥にまみれたYZ85を、引きずるようにして戻る背中は、両肩が上下に大きく揺れていた。入れ違いにCRF150R-Ⅱから身を剥がして、颯爽とパドックを抜けていく彼女が一人。走りはしっか…