2017-07-01から1ヶ月間の記事一覧

「やっぱ、楽しいわ」 5

<7/27の続き> こんなときは、ハリイチを変えるのが手っ取り早い。 すぐにパドックに戻って、RMをフレームの下からレーシングスタンドで持ち上げる。かがみ込んでPWKのボディに飛び散った泥をていねいにウェスでふき取り、前後のバンドをプラスドライバーで…

「やっぱ、楽しいわ」 4

<7/25の続き> MOTO-X981は、パドックからコースへのアプローチに勾配がつけられている。その見た目よりもきつい坂の砂利道を、RMがあえぐようにして上っていく。暖まりきっていないエンジン、でも、いつもはこんな感じじゃない。ただ1台、コースを走るYZ12…

「やっぱ、楽しいわ」 3

すぐに訪れた軽バンには、YZ125が窮屈にねじ込んである。このところ週末、それも土曜も日曜日もほとんどすべてここにやってくる、ストイックなシャイボーイ。ボーイと言うには年がいっているけれど、とにかくカレは一度コースに出たら、なかなか戻ってこない…

「やっぱ、楽しいわ」 2

一晩中回り続けた扇風機の、冷たい風で目が覚めた。カーテンを開け放したままの窓に、夜明けを迎えた空が一面の鉛色になって映っている。昨日までの真夏は雲の向こう、涼しい朝にかえって調子が狂ってしまう。それでも手早く支度をすませて、荷物を積み込み…

「やっぱ、楽しいわ」

シートの後ろに腰を「く」の字に引いて、ステップに立ち上がったまま、最後の右カーブへとYZ125を走らせる。アウトバンクいっぱいに車体を翻し、左指をクラッチレバーにかけてリヤタイヤを操り、林の先へと落ちていく。途切れ途切れに届く排気音が荒れた斜面…

初めての夏 4(完)

二つの明るいライトが続けざまに砂利を踏みしめていく。 クラブハウスからこぼれる灯りが届かなくなると、手にしたマグライトだけが頼りになる。真っ暗なパドック。目の前の町道を走るクルマもなくて、どこまでも続く静けさの中、青いSIERRA DESIGNSのテント…

初めての夏 3

ビールのホップか焦げた肉片か。 それともただ、笑いすぎただけなのか。 今度はほどよく脂の残った豚ロースをつまんで、苦く乾いた喉にまた琥珀で流し込む。木から木へとぶら下がった灯りは、いよいよ夜に映えて、テーブルの上が、アルミの缶で埋められてい…

初めての夏 2

キキキキキッと鳴くヒグラシに、赤ら顔が林の奥へと振り向いた。 その鳴く方は、もう夜の帳につつまれている。そして、ryoと二人、モトクロスを始めた頃からコースを走っていた顔のひとつひとつが、枝に渡された裸電球の灯りに照らされる。昔を懐かしんでも…

初めての夏

暮れなずむ西の空に、いくつもの人影が浮かび上がる。 まっすぐ伸び上がった杉木立に涼風がそよぎ、炭の熾火を赤々と照らしていく。ある者は冷えたビールを手にあおり、ある者は焼き上がったばかりの肉を割り箸でほおばり、横長のプラスチック製のテーブルは…

憂いなき休日 9(完)

<7/14の続き> ビッグテーブルをひときわ高く舞い上がり、乾いたランディングに合わせてブレーキペダルを踏みつけ、斜面にうまく着地する。続くストレートを加速しようとした瞬間だ、週末にはまったく聞こえなかった、奇妙なデジタルサウンドがいきなり響い…

憂いなき休日 8

<7/12の続き> ブレーキをかけ始めるポイントが少しだけ遅くなって、コーナーを抜けようとする車体を無理矢理引き起こし、クラッチレバーをちょこんと引いて加速する。先週のベスコンとは気分の乗り、リズムがまるで違う。それはワタシとryoにしかわからな…

16インチという名の媚薬

道端の緑が揺れることもなく凪いでいるはずの夕暮れに、突然真横から風がぶつかったみたいに、車体ごとBongoのハンドルが左に持っていかれた。それは、ひび割れたアスファルトにタイヤが沿って走っているだけ、たしかに風なんて吹いてない。細かな隆起とへこ…

憂いなき休日 7

木の香が冷たい風にゆれるクラブハウス、ここに長居は禁物だ。暑気に立ち向かう気持ちまで、すっかり冷やされてしまう。「骨抜きにされる前に」とmatsunagaさんと連れ立ち外に出ると、ちょうど昼休みが終わるところだった。そして、蒸し暑いパドックから1時…

憂いなき休日 6

勢いにまかせて走れないもどかしさ。もがいてはもたつくワタシのRM85Lをもてあそぶように、寄せては引いて走るKX85-Ⅱ改。操るmatsunagaさんの小さな背中を見つめて思うことは、いつも同じだ。 ワタシは10年過ぎてもまだ、ここにこうして走っていられるのだろ…

憂いなき休日 5

<7/6の続き> 風も吹かなければ、雲も動かない。パドックに腰を下ろしているだけで、じっとり汗に濡らされていく。雨の名残は低く這い、カラダにまとわりついては、火照りを内に閉じこめる。待っていても暑いだけ、ならばと覚悟を決めて、独り走るKXの後を…

本気で遊ぶ夏!

本気で遊べる夏が、あと何度自分に残っているのか。そう考えて、ドキリとした。 BE-PALのライターも、いいことを言う。 それなのに、近ごろの自分は忙しさを理由にして遊びそこねていた。残された夏は少ない。本気でかからねばなるまい。 おっしゃるとおり、…

かすみがうらのたそがれ

午後6時。いつもなら家の近くまで帰っている時間になってから、ようやくパドックを後にする。暮れてしまうにはまだ早い薄暮の中、右手に弱い西日を引き連れ、神立駅へと続く県道をたどって走る。sada-chanもニセマナブも、まだパドックでのんびりしているの…

サマーバレンタイン

ゆっくり起きて、半年ぶりに練習車でも整備して、日曜日になったらまた走り込もう。そう決めてテレビの前に寝ころんでいたら、テーブルの上でスマホがガタガタと震え出した。取り上げると、覚えのあるなつかしい、人懐っこい声が聞こえてきた。ニセマナブだ…

憂いなき休日 4

「ベスコンですよ~♪」 空はまだ曇り空。まだ水気につつまれたこの朝に、もしかしたらあきらめるかと思っていた師匠から、師匠らしいコメントが届いた。左腕にはめたG-SHOCKに目をやると、針がきれいな逆L字を描いている。午前9時。いつもならもう、Bongoの…

憂いなき休日 3

夜が明けるまで雨が残っていては、さすがのMOTO-X981も朝からベスコンとはいかないらしい。saitoさんの投稿を見てからゆっくりと支度を終えて出てきたから・・・どんなに頑張っても到着するのは9時30分、日曜日だから道が渋滞することはないだろうけど、走り…

憂いなき休日 2

ryoの知っている曲ばかり並んだKISSのベストアルバムは、北海道からずっとそのまま、Bongoの中で繰り返されている。ようやく左手を伸ばして、カラオケで歌うために集めた曲を詰め込んだフォルダに、カーオーディオを切り替える。最新のJ-POPが終わって、ミド…

憂いなき休日

明けて月曜日のデスク。パソコンの画面に次々と、小さな明朝体の文字が打ち込まれていく。肩の奥には重りが挟まったようで、上がらないヒジをエッジに押しつけたまま、だらだらとキーを叩き続ける。工場の外はさらに蒸した夏日。余計なストレスから解放され…

奇跡の日曜日 7(完)

#92の車影が3周に1回の確率でビッグテーブルを跳ぶ頃になって、知り合ったばかりの、いつもはYZ125を操るご近所さんが、KX250Fの公道仕様車を転がして遊びにやってきてくれた。そのカレの横、フープスの傍らに立つsaitoさん。その白いTシャツが褐色に映える…

奇跡の日曜日 6

<6/29の続き> 昼から981に行きます! 昨日走ったはずと思ってた#92さんから、うれしいメッセージが届いたのは、二回目の走行を終えて昼飯の用意を始めたときだった。慌てていてポットもマグカップも忘れてしまったけど、ここには「クラブハウス」がある。…