2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

雨が我慢をすれば、今度は・・・

雨戸のすき間をこじ開けるわけでもなく、規則正しく波形に刻まれたその外側からアルミサッシをまとめて掴んで、わさわさと揺さぶり激しく音を立てる。夜中になっても、真冬を思わせる風音が枕元の出窓に砕けて、ガラスがぎりぎりと軋むような震えを伝えてい…

三分咲き 後編

黄色い小さな玉を、風が左右に揺らしては、建物を避けるようにして通りへ流れていく。追いかける目を細くするのは、灰色の外壁が眩しいだけじゃない。吹き渡る風に乗った「春の使い」が、両方の瞳の中に入り込んでゴロゴロと、そんなに大きいのかと思わせる…

三分咲き 前編

まだ冷たい風の上に、強い光が降って落ちる。アスファルトは白く照らされっぱなし、畑の土も、薄茶色を通り過ぎて、乾き、ごわごわしている。冷気に合わせれば汗をかき、陽射しに都合をつければ鳥肌が立つ。春は案外したたかで、油断をしていると、あっさり…

Separate Ways 8(完)

westwoodにも寄った帰り道、利根川を渡る国道6号線は、ひどく渋滞していた。右手に広がる空っぽの田園風景の上で、薄い雲を後ろからぼんやりと太陽が照らしている。何となく丸い形が想像できるだけの輪郭を残して、いつもの三倍ぐらいにふくらんでる。5時30…

Separate Ways 7

昼を境にして、太陽が青い空と一緒にやってきた。さすがに陽射しは春そのものだ。コース幅を端から端まで使う走りはできないけど、普段のように速度を乗せられる路面になってきた。“腕上がり”もずいぶん和らいできたし、午後は、いよいよ「うさぎとかめ」。i…

Separate Ways 6

<3/24の続き> 朝、出かける前に積んでおいたXR230は、もういなくなっていた。パドックに散らばった顔見知りのところを、遅れてきたryoが行ったり来たり・・・黒いダウンジャケットの肩は、いつもと違って、丸く小さく畳まれていた。そして、一番長く居たの…

こんな春の日は・・・

草が生えるときの青さと、虫のような土の泥臭さが混ざった春の匂い。風は北風で、すみわたる青い空は冬のままだけど、降って落ちる陽は春らしく光っている。空のとっても高いところを、かすれた白い雲が帯のように引かれていて、冷たい風の流れが見えるよう…

Separate Ways 5

コースの入口、第二パドックへ続く路との境に張られた黄色いビニールテープの際にRMを寄せて、左足をそっと地面に降ろす。右足はステップに載せたまま、再び右手を規則正しく動かしては、コースを見やる。ワタシにはただの障害物でしかない最後のテーブルト…

Separate Ways 4

Bongoの運転席側に置いていたセンタースタンドは、ryoがいつ来ても良いようにそのままにして、バックドアとスライドドアを閉め切り、服を着替える。ジャージの下は、エルボーガードだけ。Tシャツを着るのは止めておいた。BAY FMの時報が、9時を伝える。一番…

Separate Ways 3

真ん中辺りが盛り土されたらしくて、パドックは少し“かまぼこ”型になっていた。ちょうど乾いて膨らんでいるところに、城北Rのトランポが二台並んでいる。その正面、白いハイエースと向かい会うようにBongoを停めた。MCFAJの第二戦が次の日曜日だというのに、…

Separate Ways 2

Van HalenのYou Really Got Meを、少し音量を上げて口ずさむ。荒削りな音質のリフに合わせて肩から上を前後に軽く揺らしながら、受付に置かれた木製テーブルのすぐ脇にBongoを横付けする。下がり始めた運転席の窓から、デビット・リー・ロスのしゃがれたボー…

Separate Ways 1

ひと月以上も時間があれば・・・大事なことから離れなければならない理由が起きても、そう不思議はない。 車長の違うKX85ⅡとXR230をryoのcarryに任せるのは、ちょっと不安が残る・・・だから、KXはBongoに詰め込んで運ぶことにした。昨夜のうちに積んでいた…

さよなら、EXC-R~後編

十分に暖まったエンジン。チョークレバーを戻して、サイドスタンドを右足ではらう。車道まで下がり、大きく蹴り上げるようにして、固いシートに跨る。一度右に体を落として、ステップに乗せた左の足首を下に動かす。ギヤが一速に入ると、エンジンが一回だけ…

さよなら、EXC-R~前編

雨が上がっただけの空は、薄灰色にぼうっとしていた。まだしっとりとした朝に、少し温かな風が揺れている。体に触れる陽気は、見た目ほどには悪くない。すっかり朝寝坊がクセになった日曜日、ひさしぶりにガレージのシャッターを上げて、細く乾いたアスファ…

コタツでのんびり『相棒』三昧

浅く張り出した出窓の軒に、落ちた滴が音を立てている。カーテンの向こうでは、アスファルトに落ちた雨が、いくつもの小さな水たまりを作っているのだろう。クルマのタイヤが、その水たまりを蹴り飛ばしていく音が、不規則に続いては遠くに消えていく。カー…

これでも明日は・・・本降りの雨。

もはや、神も仏もあったもんじゃない。「地獄の沙汰も金次第」って言うぐらいだから、てるてる坊主を吊すだけじゃあ、御利益は無かったのかもしれない・・・。 雑居ビルの10階。ベランダにある喫煙所は、大人が3人も揃うと窮屈になってしまう。その喫煙所に…

AWG-101

赤い短針が眼を惹く意匠。どこか“レブカウンター”を思わせる表情だ。よく見ると秒針は省かれていて、文字盤に三つある小さな丸目のひとつが、デジタル数字を刻んでいる。全体が“ソーラーパネル”の盤面で、電池交換は要らない。おまけに電波で正確な時刻を手…

大坂出る時、連れてきて!

歌トモが桑名正博の『夜の海』を聴かせてくれた。ちょうど歌い始めてから4、5時間は経った頃だろうか、「良い曲でしょう?歌詞がイイ」とささやかれた曲の記憶は、残念だけど思い起こせないでいる。ただ、「ミナミのスナックに行けば必ず歌っている人が居る…

跳べない天使たち 3(完)

<3/11の続き> 思いがけず人生初のヒトカラになった。金曜の夜らしく、二人連れにあてがわれたのは、10人も入ればいっぱいになりそうな、こぢんまりとした部屋だった。奥行きのない横長の造りは、液晶画面との距離がちょうどいい。1時間ほど洋楽を中心に唄…

もうすぐ、春!

忘れかけていた空の青。雲ひとつなく、すみ渡って、江戸川の土手のはるか上には、得意気な太陽が上っている。昨夜のあられに濡らされた道端に霜柱が光る朝。東京では北風が舞っていると、テレビの中で話している。まだ冬晴れと言った方が似合うくらいに、空…

跳べない天使たち 2

すでに閉店までのオールナイトで予約済み。手回しの良さが、何とも心地よい。ヒトカラで鍛えるだけのことはある。仕事を終えて、クルマで千葉の印西まで向かう道のりは雨の中だ。約束の22時まで、あと5分。降りしきる雨をワイパーで掻いて、何度も切り返しな…

跳べない天使たち 1

雨を待っていたかのように、メールが入ってきた。しかも、会社用と個人用の携帯それぞれに送るという、念の入れようだ。送信者の名前を見れば、メールを開かなくても内容はわかる。件名には『本日』とある。「本日は、どんな感じでしょうか?」で始まる、い…

じゃあ、来週 5(完)

<3/6の続き> チェッカーが振られて、次々とパドックへ戻るマシン。コースで走っている勢いを引きずったまま、高揚した気分で帰ってくる。跳ね上げる泥をかけられないように用心しながら、水のないところを選び、ぬかるみを縫って歩く。ジグザグに、バラバ…

横顔

頭を思い切り左にねじるようにして、窓の外を見る。高架の下では、越谷の街並みが、すっと静かにしている。背の高い落葉樹にまだ緑はなくて、茶色い幹と枝だけが、細長い三角の形をして立っていた。その向こうに、絵の具の減りが片寄った絵しか描けなさそう…

Hard Times

まだ、まどろんでいる薄灰色した朝。シロとネロに引きずられていく田んぼ道に、いつものひばりが空に上っていた。今日は、二羽で合唱。伴侶でも見つけたのか、時々甘えたように長い声で鳴いている。その黒く小さな姿を見上げて大きく息を吸い込むと、湿り気…

じゃあ、来週 4

場所取り用に置かれたオイル缶を斜めに避けて、そのまま頭からBongoを突っ込む。前タイヤが、小さな水たまりを押しのけて、ひとつ大きな水たまりを作った。助手席に手を伸ばしてゴム製長靴を取り、履いてきたスニーカーと取り替えてから、運転席のドアを開け…

じゃあ、来週 3

コースの入口まで伸びた雨の痕。タイヤで泥を掻き上げないように、そろりそろりとBongoを走らせる。ギヤは3速。水たまりの下に隠れた路面の凸凹を、安いルーフ式のリヤサスペンションが拾い上げては、ぎしぎしと車体を左右に揺らしている。時々、勢い余って…

じゃあ、来週 2

砂利の混ざった月極駐車場の入口。中学校の校庭に設えられたピッチャーマウンドの周り。そして、農道の両脇に広がる田んぼのあちらこちらに、大きくしっかりとした水たまりが残っている。外を明るく照らした陽射しが、フロントガラスから差し込んでは、車内…

じゃあ、来週 1

5時40分に目が覚めて、カーテンを引いて・・・外は明るんでいるだけの曇り空。携帯のアラームを30分だけずらして、もう一度ベッドの中にもぐり込む。6時30分。引いたままのカーテンの向こう、出窓のガラス越しにムクドリが鳴いている。それでも、空は雲に覆…

ひばり

何かの罰を受けたから、まっすぐ上にしか飛べなくなった・・・小学校の国語だったか、道徳の時間だったか忘れてしまったけど、先生にそう教えてもらった記憶がよみがえる。春が近づくのを待ちきれないひばりが、羽音ともつかないジタバタした様子でさえずっ…