2017-02-01から1ヶ月間の記事一覧

as usual 2

<2/25の続き> 左腕のTISSOTを眺めると、時間は9時15分を過ぎたばかり。急な下り坂のブラインドから、いつものようにウインカーを上げて左にハンドルを回すと・・・まだがらんとしているはずのパドックに、トランポがみっちり詰まっている。開けているのは…

冬空の下に集いし 7(完)

仕舞い込んでいたネックブレースを引っ張り出して挑むテーブルトップ。その台形をバラバラの飛距離で跳び越えながら、それでも感覚をつかんできたYZ125は、続くストレートを伸びやかに加速する。そして、撒き上げる煙幕を今度はRMが、夢中で切り裂き走る。少…

冬空の下に集いし 6

<2/24の続き> お楽しみは、反り返るバンクを駆け上がり、広く伸びた直線へ全開で落ちていくまで。褐色が杉の林に黒ずむ路面へ変わり始めると、カラダは強ばり、ヒカリを失ったRMは、息をひそめるようにエンジン回転を落としてしまう。 ワダチのないコーナ…

as usual

1、3、5℃。橋を渡るたび、陽が高く上って、空気もゆるんでいく。土曜の朝、往来は昨日と明日の、ちょうど真ん中辺りの忙しさで、働くクルマなんかを運んでいる。ガラス越し、肩に当たるヒカリがじわりと暑く。肌を射す。 しばらく走り慣れた学園の大通り、片…

冬空の下に集いし 5

けして遠回りもしないし、いたずらなショートカットで楽をしない。 いつの間にか前を走っているRMをいぶかるように、4ストローク150ccがひときわ爆ぜる。アウトばかりを選んでコーナーをつなぐワタシに、インをていねいにたどるその音が聞こえてくる。「まと…

冬空の下に集いし 4

彼の青いYZ125をその気にさせたマシンが、土埃の収まった視界の先に小さく映り込む。林の陰を横切るようにして走るのは、#113を纏うCRF150R-Ⅱ。ざりままのマシンだ。フルコースを楽しめるようになったMOTO-X981を、その日いちばん楽しんでいたのは、彼女だっ…

冬空の下に集いし 3

「ああ、上に上がるジャンプねー。やっぱり怖いよなぁ」 YouTubeにあがった動画を見るなり、事も無げにそう言われたと、大きな背中が笑い出す。そうだ、地上から高く跳び上がるのは、それだけで誰でも怖いんだ。それを頭ごなしに「いけるだろ」とは、よく言…

冬空の下に集いし 2

<2/19の続き> 「みんな跳べてんだから、いけるだろ」 褐色の向こうに、青い車影が霞む。同じ2ストローク、40ccほど上乗せされた排気量が、ひと回り太ったエグゾーストを白煙とともに弾き出す。あれから、ちょうど一週間。受付のsaitoさんにカミさんの携帯…

さらば、ぶいまっくす!

「あのバイク、なんて言うの」 「ん?どれ?」 「さっき、ぼくたちのこと追い抜いていったの」 「ああ、V-MAXかぁ」 「ぶいまっくす?」 「ヤマハの1200cc、軽トラの2台分だぞ」 「速いの?」 「速いさ!さっき、速かったろ?」 「SRVより速いの?」 「はは…

冬空の下に集いし

ビッグテーブルを跳び越え、舞う砂塵のはるか先を追いかける。固く乾いた感触がハンドルバーを伝い、開いた両腕から握力が抜けていく。バックストレートに沿って走る、緩やかな直線。2ストローク85ccが5速に入ってすぐ、軽く上りながらの左カーブが待ってい…

エンスト、水浴び、前回り 5(完)

乾いているはずのものが濡れていく、そのやるせなさ。 いつの頃からか、その感触を楽しむココロも失くしていた。雨上がりの河川敷、道幅いっぱいに広がった水たまりに向かって嬉々としていたのも、遠い昔のことに感じる。雨の日のレースも走らなくなった今で…

エンスト、水浴び、前回り 4

クリッピングポイントまで、前下がりに走るRM85L。右手はスロットルグリップを閉じたまま、右足はブレーキペダルに触ったままだ。そして、うまく1速に落ちなかったエンジンは、細い2ストロークの鼓動を止めてしまうと同時に、フロントタイヤをワダチの縁にこ…

エンスト、水浴び、前回り 3

<2/13の続き> アウトに弾かれ、転げ落ちたYZ250Fを、三人掛かりで引っ張り上げている。その姿をゴーグルレンズに映しながら、するりと抜けていくはずだった・・・。 <つづく>

春、近し

月影残る西の空にも、すっきりとした青が広がり、朝が凛と目覚める。霜柱の立つ畦道。まだ冷たい風をはらんだ枯れ草から、ヒバリがせわしく跳び上がった。見上げる青の中、その声に生まれたばかりの陽が眩しい。 この風も少しずつ向きを変えていって、明日は…

聖なる日に

冬は宵闇。 星明かりさえ眩いこの季節、街にも灯りがよく映える。そして、モノトーンに浮かぶネオンに今宵、恋人たちが愛を誓う。バレンタイン司教を偲ぶ記念日は、義理であっても本命でも、いつの時代も世の男どもを惑わせることをやめない。もはや義理と変…

エンスト、水浴び、前回り 2

理由は簡単。そのワダチに分け入ったのは、それが初めてだったから。そして、さっきまで走っていたラインにフルサイズマシンが2台、横に寝かされていたから。 右に折れてコースをショートカットするカーブのイン側、深く刻まれたワダチは、内側のくぼみギリ…

エンスト、水浴び、前回り

マシンから崩れ落ちた半身、右へ逆さまに、横倒しになった肩口から黒土の斜面をそのまま滑り、折り曲げた右のつま先が静かに泥水に浸かっていく。SIDIのブーツの隙間から冷水がゆっくり流れ込んできて、寝ころび仰ぐ空の青にRMの黄色が映り込む。後を追うよ…

「20 minutes」

風が吹くままの宵闇に、月が明るく浮かび上がる。 立春が過ぎても暦とは裏腹、陽射しのない時間にはまだ、冬が幅を利かせている。その凍えた朝にもココロを折られないようにと、RM85LはもうBongoの中だ。そして、密かな思いは「20 minutes」。20分間、切れ目…

不馴れな 6(完)

あと何回、この斜面から離陸すれば、あんな風にステップに伸び上がりながら、ふわりと跳べるようになるのだろうか。できたら左の手をグリップから、ほんの少しでもいいから、離してみたい。そんな思いを抱いてまた3速のまま、斜面から勢いよく放り出される。…

不馴れな 5

ふぞろいのワケを振り払うようにストレートを駆け抜け、陽射しを遮る黒い森の手前でショートカット。しっかり加速してからステップアップを跳び越え、少し右にベントしたバックストレートでRMを全開にする。 途中、コースで一番お気に入りのジャンピングスポ…

不馴れな 4

フープスを抜けてひとつギヤを落とし、第4コーナーは2速で回る。立ち上がってすぐに短いテーブルトップの斜面。ひとつギヤを上げながら薄く跳び越えると、続く長い斜面にマシンを正対させてから4速に蹴り上げて、加速。斜面をとらえたフロントフォークが、グ…

不馴れな 3

<2/5の続き> リヤタイヤに期待しすぎなければ、固く締まった路面は旧いMX408を思い出させてくれるだけで、思いの外に具合がいい。2速のまま、コーナーを2つ、テーブルトップを2つ交互にいなしていって、アウトに深く砂の溜まる第3コーナーを、その縁で切り…

風と陽光と、

気の早い春待人が、甘い西風にコートを置き去りにして、陽光射す快速電車に乗り込んできた。内側の靴底が異様にすり減った黒い革靴に、余裕のありすぎるスラックス。その灰色には紺色のブレザーと淡い青のシャツを合わせ、明るめのタータンチャック柄が胸元…

不馴れな 2

キャリパーが薄いステンレスのディスクを挟み込み、沈んだフロントフォークがタイヤを路面に押しつける。逃げ出すことなく、バックストレートの勢いを受け止め、ぐぐっと殺していく。問題なのはその先だ。乾ききったカーブに、吹き溜まったさら砂。右手に過…

不馴れな

降らない冬日と、吹き荒れた北風。路面には霜も浮き砂さえもなくなり、網の目のようにひび割れた褐色が、固く真っ直ぐに延びている。数メートル先に移動したショートカットの入り口のおかげで、バックストレートへつながるステップアップも、2速できれいに跳…

風神、現る

ようやく6年が過ぎようとしている大震災に遭い、大きく揺さぶられた古い工場は、あちらこちらの建て付けに、うっすら隙間ができてしまっている。数日来の強い北風が、その隙間をこじ開けようと突っ込んでは、叫ぶように烈しい声音を辺りに響かせる。 白壁が…

まっこと不自由なモノなり

夕べの風が勢いを増して、乾いた田畑をすくい上げる。砂塵がアスファルトを横切り、前を走るワゴン車が、大きく左によろめいた。その風に巻き上げられるように、陽射しは高くから眩しく降り注ぎ、空に遮る雲はひとつも浮かばない。透明な冬の色が揺れている…

如月の初夜

風に如月の初夜が冴えわたる。月の隠れた淡い漆黒にオリオンは寝そべり、大きくヒシャクを描く七星が、その横で不揃いのヒカリを放つ。そして、見上げる帳の裾をさらうように気紛れに、音を上げてはあちこちぶつかりながら吹き抜けていく、北からの使い。外…