2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧

彼岸 8

ウェーブの張られたバックストレートから曲がって、今はkusabaさんの操る#41の黒い車体が、ギャラリーテーブルをゆっくりと跳ねていく。まっすぐな視線を、フロントタイヤのすぐ先に落としながら。 そして1周を走りきり、最後のテーブルトップを跳ばずになめ…

彼岸 7

乱れた音をけたたましく散らしながら、黒装束のCRFがホームストレートを駆けていく。第1コーナーで反転すると、今度は小さな車影から直接パドックに向かって、不作法な排気音をぶつけてくる。ギャラリージャンプの傍らに立ち、あらためてそのryoの愛機を目で…

彼岸 6

さらりとした所作でシートに跨がり、4スト150ccの名手は、2、3回のクランクで事も無げにエンジンを始動させる。相変わらず素直にアイドリングするから、下のセッティングに問題はない。ただ、kusabaさんがつぶやくとおり、そこから静かに右手を開いていくと…

彼岸 5

誰もがキャブの不調、と言うよりはワタシの整備不良を信じて疑わない。一番の近道は、もう一度FCRをバラして組み付ける。ただそれだけのこと。なのに、このマシンとキャブレターの組み合わせは、その気持ちをすっかりくじいてしまう。CRF150R-Ⅱの真横にたた…

彼岸 4

キャブセッティングで言えば「開け始めから開度1/2まで」、つまり一番使うところがまったくダメ。回転の上がりが鈍ければ、もちろんチカラが出るわけもない。せっかく乾いた砂が、散水のし過ぎで少し重たくなっていたけど、4スト150ccのCRFには問題ないはず…

彼岸 3

週末から次の週末まで、丸々9日間。長いその夏休みの冒頭に、里帰りしてきたryoが乗ったときのまま、エンジンが吹けあがらないCRF150R-Ⅱは、ついにここまで手を入れられなかった。ぶっつけ本番で軽井沢まで持って行ったのが、一週間前。その日も、結局bongo…

彼岸 2

「シルバーウィーク」といきなり言われてもピンとこない5日間の連休は、夏休みが終わってひと月しかたっていなくて、どうしていいのかもわからず、おまけに途中に休日出勤をはさんだせいか、普通の週末と代わり映えがしなかった。それでも夏の終わりとも秋の…

彼岸

「muraさんのは・・・08でしたっけね」 ワタシの積んできたCRF150R-Ⅱは、黒い外装と41のゼッケンをまとい、右のサイドカバーに第1コーナーのバンクに倒れた痕が茶色く残っている。軽トラの端に載せられる姿に、誰も奴の顔を映すことはないと思っていたけど、…

イリュージョン 4(完)

<9/19の続き> 軽い車体のせいか、それとも右足をはずしたからか。いつもよりオーバーステア気味で、コーナーに入ろうとするGROM。でも、蛇角がついたわけじゃない。たとえるなら、サイドスタンドを軸にしてその場で車体が回転するような、そんなタイヤが浮…

明日、天気になあれ

パソコンのキーボードを叩く音が、高い天井に向かっては、大きな音で跳ね返る。通路に沿ってコの字の形で延びるフロアには、ほかに誰もいなくて、息づかいまでが妙に耳に触るくらい静まりかえっている。夏の終わり、初秋にかかる前に訪れた「銀色の」と形容…

Special Day

KISS Onlineには、「THIS DAY IN KISSOTRY」と題して、過去のその日の“物語”が綴られる。アルバムのリリース日がほとんどだけど・・・この日、9月18日は、KISSにとって、ずいぶん特別な一日だったようだ。 September 18, 1978, the KISS Solo Albums were re…

イリュージョン 3

<9/17の続き> カジュアルブーツのゴム底が、アスファルトに軽く当たる。荒れた路面に引っかかりながら、弾むようにして流される右足が、GROMのステアリングを薄く右に引きずっていく。浅い角度で黄線を越えていったところで、右足をステップの上に戻し、左…

雨の包みがほどける休日

頬に触れる風はどこまでもさわやかに流れて、 眩しく注ぐヒカリがやさしく肌をなでていく。 こぼれる笑い声はヒカリと風に紛れ響いて、 ありきたりの秋日が雨に包まれて見えない。 残暑にもならない長月に生まれた連休の初日、 明日から空に陽が戻り、秋がよ…

イリュージョン 2

馬の背を思わせるゆるやかな曲線には、どこまでも黄線が続いている。前をふさぐ牛のようトラックもいなければ、後ろからつついてくる狐のようなスポーツセダンも、今朝は見えない。加速するGROMの上、試しに左のステップから足を離して、そのまま外へ下ろし…

イリュージョン 1

端からリヤブレーキをあきらめるなんて・・・今はもうできないさ。 そうわかっているはずなのに、どこかネジのはずれたアタマは、邪なアイデアに色をつけ始めた。夜から降り始める雨が金曜日まで残ってしまうというから、我孫子の仕事場に置きっぱなしにした…

思えばあまりに短くて・・・

かすかに流れるアコースティックな旋律は、静かに心地よく、今たどって来たばかりの眠りの縁へとふたたび誘うよう。薄く開いた瞳には、空虚な暗がりが映り込むだけで、まったく朝が来たのかさえよくわからない。裸眼でぼやけているのはアタマの中、はたして…

Back Shot 2/2

<9/12の続き> フレームに乗せられたガソリンタンクは細く、艶やかな黒色を薄暮にさらしている。シートに向かって絞り込まれた曲線と、ヌメるように光るフルフェアリングの黒との間に、脚は、細くまっすぐに降りていた。“TERMIGNONI”と描かれたステッカーが…

BMW

FaceBookの友達にひとり、似たようなバイク遍歴を持った奴がいる。ロードからモトクロスに迷い込み、最近になってCBR1000Rを手に入れてからは、アスファルトの上で過ごす時間が長くなったようで、引きずられるようにツーリングにもよく出かけている。その友…

Back Shot 1/2

標高1000mを越えたいで湯の里は、あい変わらず人気がある。観光バスが連なり、関東だけじゃなく関西のナンバーを付けたクルマが、一本道の国道に長い列をつくる。その中心に滔々と湯をたたえる湯畑に、ひとひとひと。老いも若いも男も女も、とにかく人であふ…

ココロ躍るのは、今も昔も金曜の夜に。

雲のはがれた空は、きらめくヒカリをたずさえ、どこまでも青く澄んでいた。3時間おきの予報には太陽を模した意匠が並び、休日の二日間にもひさしぶりに傘のマークはない。ビルの谷間から、広がる田園から、のぞく空色と、明日の天気を知らせる予報ばかり気に…

スプラッシュな木曜に、GROMで。

今まで聞いたこともない「線状降水帯」とやらは、南から北へひっきりなしに積乱雲が駆け抜けては雨を降らせ続けるという、晴れも雨もすべて西から東へ走っていくと思っていたこれまでがまったく通用しない気象現象。その降水帯の真下にあった我が家は、夜半…

三日続いて、壊れそうな水曜に。

ベッドから身を乗り出して、つかんだカーテンの端を壁に向かって投げつける。ぼやけたヒカリが拡がりながら部屋の中にはうっすらと色が戻り、覚めてきた耳の奥底に、昨日と同じ水の音が届いた。切り落とされたように終わった夏から長雨の時季がやってきて、…

湿気た火曜の空に。

いつもより30分早く起きただけなのに、とてつもなく睡眠時間を削られたような、どこか釈然としない気持ちのまま、ペタペタと音を立てて階段を降りていく。夕べからの雨が、閉め切ったガラス越し、冷たく湿った空気を漂わせている。薄暗い部屋の中で見慣れな…

二日後の雨の月曜に。

あれから二日も過ぎているのに・・・ヒジを張ったまま後ろに引いていくだけで、肩の回りに付いた筋肉がヒリヒリと痛み出す。思っていたよりも深く軟らかく濡れた山砂が、コースのあちこちに散らばっては、2ストロークのひ弱なトルクをあっさりと奪い、頼みの…

真夏の最後に~たったひとりのイエローフラッグRT編~

matsunagaさんに洗車機を借りて、さっぱりした85SX。最後の10分をチカラいっぱい走りきり、リヤアクスルにかませたスタンドで傾げる愛機を、イスに深く腰を落としてぼうっと眺めているときだった。長身の体躯がふらっとやってきて、醜く折れ曲がった痕の残る…

真夏の最後に~可憐な秘密兵器編~

あわてて100ccにかさ上げしたmatsunagaさんは、混合気の調整に手間取っていて、なかなか調子が上がらない。その脇で、いきなり冷たいかき氷をごちそうしてくれたチームの秘密兵器、紅一点が午後二本目のお相手になるとは・・・カルピスメロンのシロップに不…

真夏の最後に~隻眼の獅子編~ 3(完)

帰り支度を始めているハイエースの後ろから、「お疲れさまでした」と声をかけてみる。午前中で引き上げる、そのスタイルは、いつもと変わらない。すぐに振り向き、こちらに歩み寄っては「今日はバトルできたねぇ」とnagashimaパパ。ハンドルをぶつけ合ったこ…

真夏の最後に~隻眼の獅子編~ 2

倒れた子どものKX65に、すぐ前を走っていたマシンがぶつかるように止まってしまう。その2台を大きく右によけて交わそうとしたときだ、後ろから大きな声が聞こえたかと思ったら、ハンドルがガツッと鈍い音を立てた。スロットルグリップに何かが当たって、勢い…

真夏の最後に~隻眼の獅子編~ 1

口さがない連中は、むしろ親しみを込めて「お便所コーナー」と呼ぶ。 奥からギャラリーテーブルへと抜ける直角の左コーナー。手前の直線にゆるいコブが3つ増やされたおかげで、速度を乗せて曲がるのが難しくなったこの左コーナーに、一番近いところに、きま…

真夏の最後に~ざりまま編~ 3(完)

反った斜面に挑むようにタイヤを押し当て、高く跳び上がっては反対の斜面のその先に、鈍い音とともに落ちていく。3本ある上り坂で詰め寄る背中には、小さく金色の髪が揺れている。どこまでも頑なにインを守り、アウトから迫る橙色のマシンにブレーキペダルを…