2017-10-01から1ヶ月間の記事一覧

雨のあわいに 2

<10/28の続き> 「ベスコン!」と言い切るには無理のある、ゆるんだ第2コーナーに嫌気がさしたのか・・・「マディーじゃん」の一言と笑みを置き去りにして、takuzoくんのハイエースがパドックを出ていった。30分も走らない彼らしさに、見送る方も笑いながら…

雨のあわいに

一度も全開にできないまま、西へと家路をたどる。ヘッドライトにアスファルトが黒く塗れて浮かび上がり、闇に注ぐ川の上を錆びた鉄橋がわたる。遠くに街の灯が白く濁って、フロントガラスに雨の砕ける音も、だんだん大きくなってきた。Roket Rideを歌うエー…

見覚えのある、その背中に。 10(完)

前になり後ろになりを繰り返して、パドックに停まるBongoへと戻っていく。チェッカーフラッグを合図にしないだけで、それはいつもと変わらない。太陽が遠く林の緑に近づいていって、ようやく西の方角がわかったところで、どちらからともなくブーツのバックル…

見覚えのある、その背中に。 9

ずうっと下まで何本もの轍が走り、灰色の路面は緩く凹凸を繰り返す。広くて長い下り坂。弱気な右手にRMのフロントタイヤは、何度も逃げていく。それなのにCRFは、ここを自在に駆け抜ける。途中、ハイサイドを喰らってフッ飛ばされても、その勢いは、見上げる…

見覚えのある、その背中に。 8

<10/22の続き> ステップダウンの底から再び斜面を駆け上がり、シングルを三つ、流れるように跳び抜ける。ミニモトには過ぎた広さに、ラインも何もあったもんじゃない。ただ、全開にしてハンドルバーを押さえ込むだけ。それでも柔く荒れた火山灰に、着地す…

見覚えのある、その背中に。 7

<10/20の続き> 空に向かって斜面を映すバンクは、大きく波打ち、浅いウォッシュボードを貼り付けたように下まで続いている。その波を、カワサキと見紛うばかりのCRFが、重たく砂塵を蹴り上げ疾駆する。傾きが平らに戻ると、そこから緩く上りながら大きく左…

見覚えのある、その背中に。 6

<10/17の続き> たしかに見覚えのある、丸い小さな背中には、星を模したエナジードリンクのマークが肩口から斜めに描かれている。それが夏の名残のヒカリに鮮やかな赤を映していた。右肩に爆弾を抱えたまま、ジャージの上にブレストガードを背負い込む格好…

見覚えのある、その背中に。 5

<10/15の続き> 西からの風に抗うように、ryoの右足がキックペダルを踏み下ろす。カチャカチャと数回、ペダルの戻る音だけが響いた後に、4ストローク150ccエンジンはいきなり目を覚ました。風に弾ける咆哮。そして、チョークノブを引いたまま、ゆっくりとス…

見覚えのある、その背中に。 4

大袈裟な手術のおかげで、ryoの左の肩はもう、簡単には外れなくなった。ただ、何もしていない右肩には、今も脱臼癖が残ったまま。だから今日もこうして、肩口をくるんだサポーターに、ベルクロテープを螺旋に巻き付けてやらないといけない。思えばこの「儀式…

見覚えのある、その背中に。 3

「帰りにこれ、ポストに入れていってね」と手渡された駐車証には、大きく数字が書いてあった。それをダッシュボードに放って、どこまで行けば、どこで停めたらいいのかもよくわからないまま、ゆっくりとBongoを前へ走らせる。 日曜日の昨日、今日のように広…

見覚えのある、その背中に。 2

フロントウインドウ越しに、ただ景色を眺めているだけの二人に後ろの荷室から、くぅんとネロが鼻を鳴らし、「降ろしてくれよ」とねだってきた。一瞬止まった時間が再び動き出して、助手席から降りたryoが受付小屋、「小屋」と言っては失礼なくらいに立派な三…

見覚えのある、その背中に。

遮るもののない空が、ただ青く突き抜けている。その下で灰色の火山灰が、緩やかな起伏を彼方にのばして、緑の縁へと見えなくなっていく。どこからコースが始まり、どこまでがパドックなのか。いったいここが目指したモトクロス場なのか、それさえわからなく…

長い日曜日 6(完)

午前十時 NEXCOが思いついた新しいサービスのおかけで「一時退出」を許されて、どうにか腹を満たすことのできたBongoが十和田インターから再び、高速の本線へと戻っていく。それまで我慢していた右足は解かれて、失った時間をたぐり寄せようと追越車線を駆け…

長い日曜日 5

<10/7の続き> 午前九時 初めて終点まで走る東北縦貫は、岩手から青森に入るものとばかり思っていた。それが十和田湖の南を西に秋田へ入り、そこから青森に迂回しながら抜けていく。安代で分け入った道は、やがて山を越えて蛇行を繰り返す。ほどなくやって…

ばくだん

タクシードライバーが教えてくれた割烹の店は、駅前の華やかなネオンから少し離れて、古い寺の陰にやわらかな色を漂わせていた。表通りからはまったく見えない、言われたとおり「ちょっとわかりにくいところ」にあったけれど、近づく暖簾をくぐる前から笑い…

長い日曜日 4

午前六時 朝もやが白く掃かれて、遠くにガスステーションの暖色が霞んでいる。何処にいるのか、はっきりするまでずいぶん時間がかかってから、鼻を鳴らずネロに手を伸ばした。夜が明けても体は重たいまま、シートに崩した上半身を捻るだけでまた、瞼が閉じて…

長い日曜日 3

午前四時 郡山の出口が、いくつもの妖しいヒカリに彩られている。高速のインターに乱立するのは、男にとって都合のいい理由があると、どこかで聞いたことがある。事の真偽は別にしても、そのきらめきは確かに色情を煽る。ただ、問題はその後。酔ったあげくの…

長い日曜日 2

<9/24の続き> 午前二時。 信号待ちの右手から、小さなテールランプが二つ、いきなり翻った。Vツインの低音が黒いアスファルトに弾けながら、大きく弧を描いて、闇に溶けるように一気に離れていく。真夜中に単車と戯れる背中をただ見送り、青色のシグナルに…