2017-01-01から1年間の記事一覧
<12/7の続き> 弾けるエキゾーストノートを耳で追いながら、膝に巻き付けたニーブレースをきつく締め上げる。わずかにこぼれた光にエクスパッションチャンバーが、黒く自由な曲線を描く。そこから覗くパドックも、コースへのアプローチも、その優美な曲線に…
<12/11の続き> 午後3時30分、残り30分の走行枠。西日の射すコースを走るのは、二人だけになった。 ヘルメット越しに聞こえるのは、なだらかな曲線を弾みながら刻む、4ストロークの重たい排気音。その音と背中がまた、左アールを大きく外へと回っていく。最…
表の泥が削られ落ちて、濡れたバンクがうっすらと光る。その縁にリヤタイヤをあわせ、再び半クラッチから一気に斜面へと立ち上がる。陽を浴びた勾配にはCRF150RⅡの影が這い、エグゾーストノートを散らして、木々の陰の中へと跳び抜けていく。わずかに排気量…
傾いた陽が、褐色に陰影を落とす。その光を背に最終コーナーを翻し、左の人差し指を軽く引いて、前を走る4ストロークに近づいた。右に緩くベントした先は、一つコブを越えると短い直線になる。少し屈めた背中とマシンの後ろ姿が、現れた逆光にくっきりと浮か…
<12/1の続き> 腰ではなく脇腹に傾げるマシンをレーシングスタンドに載せて、コースに延びるスロープをゆっくり振り返る。葉とも枝ともつかない細い緑がかすかにそよぎながら、朝の光を遮っている。夏の間、あれほど癒されたはずの杉木立も、今はただただ邪…
開いたドアから勢いよく、朝の空気が流れ込んできた。 あれほどかさついていたパドックも、落ちた木の葉がしっとり濡らされている。ゆっくりとその上に降り立ち、バックドアーを跳ね上げれば、リヤフェンダーが青くすましてこちらを向いていた。両腕を大きく…
<11/20の続き> アスファルト仕立ての小さなサーキットと、鉄で編まれたランプの居並ぶ間をすり抜ける。そして、道が下り始めたらすぐ、Bongoのハンドルを右に揺らしてから一気に左の砂利道へと突っ込んでいく。まだ9時になる前。いつの頃からかもう、この…
朝の光を透かした黄葉が、北の風にざわついている。 バックミラーに白いゼッケンプレートが大きく写り込み、後ろに延びているはずのアスファルトは、その陰に隠れてまったく見えない。遠くにあった筑波の山容がいつの間にか大きく現れてきて、T字路をゆっく…
「また柏崎に来なくちゃいけないね。そのときはまたここに寄らせてもらおうね」 咲満ちた桜や艶やかな錦繍、出会いたいのはいつも見事な景色とは限らない。風光明媚だけが旅情をかき立てるわけでもない。たまたま隣り合わせた地元の人と日々の話をただ重ねて…
<11/11の続き> 学生の自分、居酒屋チェーンでバイトしていた頃、「スタミナ納豆」というメニューがあった。鮪のブツと山芋の千切り、そしてかいわれ大根を散らしただけの粗末な一品で、きまって売り上げの良くない日に出される「まかない」として、よく覚…
カウンターにたった一つ空いていた椅子に、ようやく独りの男が通されてきた。大将と軽く言葉を交わし、白髪頭の連れとも初めてではないらしい。何か大きな声でからかわれている。どうやら地元の青年、といっても30後半ぐらいの男性は、私たちにも会釈をする…
真正面にいるはずのkeiに一瞥をくれただけで、大将がにぎやかに魚を捌いていく。そのお相手は、白髪頭の男性。口とは裏腹にていねいな包丁さばきを間近に眺めていると、さっきの仲居さんが注文を取りに来てくれた。サワーとゆず酒のロックと一緒に、地魚の天…
<10/8の続き> 私の左にkei、その左にまた一つ席を空けて、女性二人が白髪頭の男性を囲んでいる。身内らしい物言いで、さっきから女二人が男を困らせ続けている。そして、仕事帰りの中間管理職風情の二人が、私の右隣で刺身をつつきながら、焼酎を注いだグ…
雨にやられてばかりの週末にうんざりしても、ひとたび乗ってしまえば、それは風のように消えてしまう。ささやかな晴れ間が覗く空の下、笑顔で昼をつつき始めるパドック。YZの彼だけが、担架に寝たまま。ただその彼も、倒れるまでは楽しく走っていたはずだ。…
saitoさんがコースにユンボを持ち出し、運転席にYZの彼を乗せて、キャタピラの鈍い音とともにパドックへと引き上げていく。ori-chanの駆るCRF150RⅡも、ユンボと一緒になってコースから出ていってしまった。 残ったのはRMと、kyo-chanのCR85改だけ。ヘルメッ…
もう一度、今度はビッグテーブルをなめるように越えていくと、やっぱりさっき見た光景が目の前にあった。今度は迷うことなくRMを逆側、バックストレートの縁に立てかけると、コースにはみ出ているマシンに駆け寄り、引き起こす。フルサイズとはいえ、2ストロ…
そこからひとつテーブルトップを越えれば、日向にインフィールドが広がっている。不思議なくらいに乾いたフープスを軽めにいなして、左の第4コーナーを外側のラインでたどっていく。そして、シングルジャンプをなめて、長い斜面から一気にビッグテーブルを跳…
<10/28の続き> 「ベスコン!」と言い切るには無理のある、ゆるんだ第2コーナーに嫌気がさしたのか・・・「マディーじゃん」の一言と笑みを置き去りにして、takuzoくんのハイエースがパドックを出ていった。30分も走らない彼らしさに、見送る方も笑いながら…
一度も全開にできないまま、西へと家路をたどる。ヘッドライトにアスファルトが黒く塗れて浮かび上がり、闇に注ぐ川の上を錆びた鉄橋がわたる。遠くに街の灯が白く濁って、フロントガラスに雨の砕ける音も、だんだん大きくなってきた。Roket Rideを歌うエー…
前になり後ろになりを繰り返して、パドックに停まるBongoへと戻っていく。チェッカーフラッグを合図にしないだけで、それはいつもと変わらない。太陽が遠く林の緑に近づいていって、ようやく西の方角がわかったところで、どちらからともなくブーツのバックル…
ずうっと下まで何本もの轍が走り、灰色の路面は緩く凹凸を繰り返す。広くて長い下り坂。弱気な右手にRMのフロントタイヤは、何度も逃げていく。それなのにCRFは、ここを自在に駆け抜ける。途中、ハイサイドを喰らってフッ飛ばされても、その勢いは、見上げる…
<10/22の続き> ステップダウンの底から再び斜面を駆け上がり、シングルを三つ、流れるように跳び抜ける。ミニモトには過ぎた広さに、ラインも何もあったもんじゃない。ただ、全開にしてハンドルバーを押さえ込むだけ。それでも柔く荒れた火山灰に、着地す…
<10/20の続き> 空に向かって斜面を映すバンクは、大きく波打ち、浅いウォッシュボードを貼り付けたように下まで続いている。その波を、カワサキと見紛うばかりのCRFが、重たく砂塵を蹴り上げ疾駆する。傾きが平らに戻ると、そこから緩く上りながら大きく左…
<10/17の続き> たしかに見覚えのある、丸い小さな背中には、星を模したエナジードリンクのマークが肩口から斜めに描かれている。それが夏の名残のヒカリに鮮やかな赤を映していた。右肩に爆弾を抱えたまま、ジャージの上にブレストガードを背負い込む格好…
<10/15の続き> 西からの風に抗うように、ryoの右足がキックペダルを踏み下ろす。カチャカチャと数回、ペダルの戻る音だけが響いた後に、4ストローク150ccエンジンはいきなり目を覚ました。風に弾ける咆哮。そして、チョークノブを引いたまま、ゆっくりとス…
大袈裟な手術のおかげで、ryoの左の肩はもう、簡単には外れなくなった。ただ、何もしていない右肩には、今も脱臼癖が残ったまま。だから今日もこうして、肩口をくるんだサポーターに、ベルクロテープを螺旋に巻き付けてやらないといけない。思えばこの「儀式…
「帰りにこれ、ポストに入れていってね」と手渡された駐車証には、大きく数字が書いてあった。それをダッシュボードに放って、どこまで行けば、どこで停めたらいいのかもよくわからないまま、ゆっくりとBongoを前へ走らせる。 日曜日の昨日、今日のように広…
フロントウインドウ越しに、ただ景色を眺めているだけの二人に後ろの荷室から、くぅんとネロが鼻を鳴らし、「降ろしてくれよ」とねだってきた。一瞬止まった時間が再び動き出して、助手席から降りたryoが受付小屋、「小屋」と言っては失礼なくらいに立派な三…
遮るもののない空が、ただ青く突き抜けている。その下で灰色の火山灰が、緩やかな起伏を彼方にのばして、緑の縁へと見えなくなっていく。どこからコースが始まり、どこまでがパドックなのか。いったいここが目指したモトクロス場なのか、それさえわからなく…
午前十時 NEXCOが思いついた新しいサービスのおかけで「一時退出」を許されて、どうにか腹を満たすことのできたBongoが十和田インターから再び、高速の本線へと戻っていく。それまで我慢していた右足は解かれて、失った時間をたぐり寄せようと追越車線を駆け…