2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

時季

やわらかな緑色がかわいそうになるくらい。 夜半からの雨も上がり、薄白色の膜の張られたブルーにギラっと太陽が浮かび、光はそこからまっすぐに落ちてくる。そして、行き交う車のボンネットに跳ね、ボディを伝い、リアウインドウに流れていく。 アスファル…

孤高

人類の偉大なる第一歩を刻んだ男の名前は知っていた。ただ、その陰にもう一人、孤高の男が居たことは、ついぞ知らなかった。マイケル・コリンズ。月面着陸に向かった二人を見送り、その偉業を、遠く離れたベース船で見守ったという。その彼が、今日、黄泉の…

安堵

ch5のドラマ、それも刑事物ばかりをよく観ている。シリーズ物が多く、登場人物の「経年変化」には感情移入が重なり、「時間」を共有している特異な感覚が、毎週の楽しみへとつながる。今宵のドラマも古くて、しっかり「十年物」だ。それぞれ思い入れのある刑…

GW

明日、もう一日だけ頑張れば、長い休みがやってくる。バイクに跨がり長い旅へと出るわけにはいかないが、このところの陽気に惑わされて、どこか落ち着かない気分になる。あまりに突然の出来事で何もできずに終わってしまった一年前。それをしっかり反省して・…

月夜

二階のベランダに出て眺める月は、夕べよりもはるかに輝きを増して、手に取れるばかりに近くに見える。悠久の時、太陽の欠片を地表に届け続けるこの星は、十年前のあの日の夜も、明るく照らしていたのだろうか・・・・・・下を向いて歩いていたせいか、記憶をたど…

畦道

荒天のはずが、宵の東の空に、まあるく月が浮かんでいる。薄雲が冷めた北風に流されては、月光を見え隠れさせる。その月の光が、ふと足下で揺れ動いた。畦を歩く耳に、蛙がうるさく泣いている。

至福

乾ききった路面から容赦なく砂埃が舞い上がり、リアタイヤだけじゃなく、フロントタイヤも勢い横滑りして逃げ出す始末。ひと月振りのモトクロス、ポンコツな身体の芯に、新しいレイアウトが痛く響く。まったく攻められない歯がゆさを抱えながら、それでも跳…

明日

毎週通っていた稲敷にも、今年になってからは、月に一回行けるかどうか。それも、自責ではなく、いわゆる他責。とは言え、愚痴をこぼす相手も場所もない。ようやく巡ってきた明日、せめて楽しめたなら、それでいい。でも、よく考えてみれば・・・・・・ん?自責で…

松戸

行き先はとても喜ぶべき場所ではなかったけれど、初夏の陽射しあふれる街並みを端から端まで巡り、ひさしぶりにワクワクした。桜並木を通り、渋滞が名物の交差点を曲がり、見覚えのあるバイクショップの栄枯盛衰を眺めながら一桁国道を走る。終のマシンにイ…

舎弟

「世話かけやがって」と文句の一つも言ってやりたいが、何せ世の中、ウイルス騒ぎで面会もままならない。備品を届けに行っても、迎えてくれるのはマスクにフェイスシードの看護師ばかり。壁をひとつ隔てた部屋で寝ているはずなのに・・・・・・それは酷く分厚い、…

情熱

電子だけどドラムセットを手に入れた。セットアップも済んだし、教則本も買ってきた。それなのに・・・・・・バイクと同じように、二階の片隅に据え置かれたまま、叩く時間がない。ん?時間が?ない?いや、時間は作るものだろ?と自問自答。この一年で、睡眠時間…

湖西

「内装もご確認いただけますか」 そう促されて、ビニールカバーがかぶったままの運転席に半身を滑り込ませた。途端に鼻孔に広がる懐かしい匂い、一気に記憶がさかのぼっていく。 フロントガラスに映るのは、見慣れた国道の景色ではなく、工場の組立ライン。…

週休

週休一日になって三ヶ月が過ぎた。 別に転職した訳じゃない。家庭、いや家族の事情ってやつだ。失った休日は実家の往復、モトクロスどころかバイクに乗るのも厄介になってしまった。そして今週の日曜日も、雨上がりで嫁の誕生日と重なった。 次の週末、もし…

裏腹

「ホームコース」と言えるほど乗り込めなかったレイアウトが、知らないうちに変わってしまった。ロングストレートに大バンク、キャメルジャンプ・・・・・・コースは大きく生まれ変わったらしい。稲敷に引っ越してから初めての大改修。設計した現役IAライダーの太…

鉄馬 2/2

<4/15の続き> ジップアップしたゴアテックスジャケットに、フリース地のベストを忍ばせ、短いテンポでギヤを掻き上げる。右手に素直な味付けは、電気仕掛けとは言え、公道でのスロットルワークを十分に楽しませてくれる。肩に当たる陽射しに、風ももう、冷…

鉄馬 1/2

この前に火を入れたのは、いったいいつのことだったか。はっきりと思い出せもしない。確かツーリングでも何でもない、もしかしたら今日と同じように、ただの「お使い」に付き合わせただけだったかもしれない・・・・・・。とにかく埃だらけのカバーをはぎ取り、イ…

晴雨

願い叶わず雨の朝。それでも陽射しの代わりに届く、南の海から吹く風が、玄関を出る体に生暖かく絡みつく。しかし、そのまま乾くことなく濡れたままの一日。夕闇が迫る頃になってまた、空が本気で泣き出した。 ウイルスとオリンピックがまぜこぜになったニュ…

雨男

急いで玄関を出て、ネロと駆けだしたアスファルトに、ポツリポツリと黒い染みが付いていく。慌てて散歩を切り上げると、じきに空には、灰色を割って光が射してきた。それから夜になってもアスファルトは乾いたままで、朝の出来事に、まるで実感がない。 降る…

矜持

義に死すとも不義には生きず 松平容保の矜持に思いが至る。関東人の身贔屓なのだろうか・・・・・・心震えるものがある。が、さにあらず。 その心、会津魂は永遠なり。

倦怠

まさかウイルスの副作用でもあるまいが・・・・・・まったく乗る気にならない。かれこれ四十年近くの付き合いは、KISSに続く長さ、濃淡はあってもけして褪せることはないと思っていたのに・・・・・・。 ただ、振り返れば、地獄の狂獣とも疎遠なときもあったっけ。不機嫌…

晩春

北風の冷たさを陽射しがさらっていく。陽の下でじっとさえしていれば温もりを感じる朝。往く季節がどこか惜しくもある。桜花はすっかり葉桜に、通りのケヤキも若い枝を伸ばして、光にあえいでいる。木漏れ日の降る中、走る原付の背中に、自分の影が映る。苔…

平穏

仕事をちょっとサボって、新しい”住人”のためにカーポートの周りを片付けただけで、見るものも聞くものも昨日までと何も変わらない、晴れた金曜日。今ではもう、曜日の感覚も薄れてしまって・・・・・・埼玉の東のはずれの田舎町には、巷のウイルス騒ぎも届かず、…

沈黙

些細なきっかけで訪れる沈黙は、ただただ息苦しく、自分の半生を顧みる時間になる。一つ掛け違えただけで、瞬時に崩れ去る安寧。四半世紀以上の営みも、相容れない性格にはただの惰性に過ぎないか。あとどのくらい生き長らえるかはわからないが・・・・・・最期だ…

花筏

五分早いときもあれば、十五分過ぎてようやくのときもあり・・・・・・とまれ午前七時の辺りになって、ゆっくりと階下に降りていく。白米が真ん中の朝食を食べてから、ネロと連れ立ち朝の散歩へと出かける。二十数分、団地の路地から田圃の畦をつたい、畑からこぼ…

停滞

五分早いときもあれば、十五分過ぎてようやくのときもあり・・・・・・とまれ午前七時の辺りになって、ゆっくりと階下に降りていく。白米が真ん中の朝食を食べてから、ネロと連れ立ち朝の散歩へと出かける。二十数分、団地の路地から田圃の畦をつたい、畑からこぼ…

夕空

昨日を引きずったままの、雨の月曜日。気温の急降下に合わせるように、やる気も真っ逆さまに転がり落ちていく。その日暮らしを気取る気分屋に、この春は忙しない。 惰性のテレワークをこなしていると、西の空が明るく割れて、ようやくアスファルトにシミが乾…

悔恨

午前五時。夜明け前にベッドから這い出て、出窓に掛かるカーテンを引いて、外を見た。乾いたアスファルトと同じ色をして、空が重そうに街並みを包んでいる。早起きはしてみたものの、計ったような曇天に、思わず口が歪む。顔を洗って、一口珈琲を啜って、ネ…

逡巡

昼前から雨模様とは・・・・・・週末の神の気まぐれにも、ほどがある。そして、繰り返される逡巡。いっそのこと朝から雨が落ちてくれればいいのにと願うのは、自分勝手のわがままと言うものか。ひとまず早寝早起き、それから考えるとしよう。夜積みも終わっている…

対峙

巷では、一山越えたような、安堵する物言いを耳にするけれど・・・・・・スギよりもヒノキの花粉に、より強い反応を見せるワタシには聞こえない。 ここからが正念場、スギの子たちに痛めつけられた目鼻の粘膜に、ヒノキっ子が追い打ちを掛ける。咲き急いだ桜と違っ…

吹雪

「雪!?」。 季節を一月半も急いだ卯月の始まりに、なぜか素直にそう頷いた。フロントガラスを左から右へ、大粒の雪がさぁっと流れていく。一瞬で視界を奪われ、ホワイトアウトさながらの場面に、アクセルペダルから右足が離れた。減速してゆっくりとなった時…