2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

晦日

手のひらに掛けていた力が、一気に消えてなくなり、あやうく上半身から崩れ落ちそうになる。まるで夢でも見ていたかのように、あっけなく晦日が暮れていく。いつもならキーボードを叩きながらの夕餉も、今宵、画面はスリープのまま、真っ黒なディスプレイに…

褒美

忙しい時だからこそ、無駄な時間が必要になる。 生まれ月の自分にと楽しげなご褒美を用意したまま、その三月が終わろうとしている。年度末、納期に追われて、ゆっくり昼を摂ることもできない。そうした今日なのに、とうとうご褒美の封を破ってしまった。 途…

痛恨

逃した魚ならぬ好日は、少し大きかった。 昼休みが無理でも、昼下がりのどこか、溢れる夏日の陽射しを借りてマシンを整備したかったのに・・・・・・気づけば夕暮れ、霞んだ西の空に、太陽が沈みかけていた。 しばらく晴天の予報が並んでいるし、サボるのは年度末…

至福

老いた両親をマーケットに送り届けて、ネロとともに在る車中。予報よりもはるかに早く、昼前から大粒の雨がこぼれ出し、駐車場もすっかり水浸しだ。フロントウインドウを叩く16ビート。そして、歪んだアスファルトに車影が走り、雨を跳ね上げるノイズが後を…

桜木

もうすぐ三月も終わろうかとするこの時機に、ようやくホームコースの初走り。初心に返って9時から走りだそうと意気込んで、夜詰み、早寝を決め込んだものの、相も変わらずの体たらく。結局いつもより15分早く出ただけ。とても一本目から走り出せる時間じゃな…

夜積

北から強く吹き抜ける風で、冬の青い空がいっぱいに広がった週末。それでも陽射しの強さは相変わらずで、空気は春の陽気を抱いたまま、肩から力が抜けていく。構えていた仕事に肩すかしを食らって、ひさしぶりのホーム遠征を前に、これまたひさしぶりの夜積…

惑心

一年前の今日、品川シーサイドに居たらしい。当時抱えていた案件の最終納品だったように思う。未知のウイルスの恐怖が現実味を帯びてきた頃で、「必ずマスクを着用してご来社ください」と、担当者にそう言われたことを、今でもよく覚えている。 あの日から一…

春霞

菜花畑に入り日薄れ 見渡す山の端霞深し 庭の菜の花も盛りを迎えて、思わず口をつく。歌の舞台である野沢温泉へは、もうどれくらい行けていないだろう・・・・・・。 コロナ禍に甘えてやしないか、そう自問自答。続く道は消えることなく伸びていて、たぐりよせるマ…

半径

半径500mにも満たない中で過ごす毎日。それももう、一年になる。 仕事場から遠く離れていたこともあって、通勤の分だけ、驚くほど時間は増えた。一日が24時間あることをあらためて思い知った一年は、しかし、気づけば失った時間も多かった。人とのふれあい、…

鍛練

想い出はモノクローム 色を点けてくれ 大瀧詠一のフレーズは、凡人に憧れでしかない。透きとおった疾走感のある旋律に、あまた珠玉のフレーズが躍る・・・・・・とまあ、こんな言い回ししかできない自分が、情けない。コロナ禍で鈍ったのは、何も肉体ばかりじゃな…

安息

雨の日曜日。このところのusualな、実家参り。途中、舎弟が過ごす総合医療センターに差し入れをして、keiが晩飯を作る傍ら、三人揃ってBS放送に流れる、競艇のレースシーンをひたすらに眺める。そして、部屋の扉で突き指したと小さく嘘をつき、次の週末に心…

満足

「何もそこまで」と、曇天の夕暮れを西に向かって走る。そして、ちぎれたテーピングの痕を眺めながら、「少しやんちゃが過ぎたか」と独り言つ。 4ヶ月ぶりのYZ125はかなり手強くて、どうにも曲がってくれない。元IAのアドバイスを鵜呑みに走り出すと、しばら…

孤独

白い尾を二本、後ろに流して、東へと駆ける。銀色の機体は単騎。かすかにジェット音を響かせながら、澄み渡る夕空にまっすぐ白を引き、その先を薄紫に溶かしていく。尾は長く、しかし、機影はあまりに小さい。その姿に、ふと思う。パイロットの閉ざされた孤…

覚醒

深く沈殿した気分を覚醒するのは、春の浮かれた陽気だけじゃない。 ほとんど一年ぶりにプラットフォームに佇む。耳に入線のアナウンスが懐かしい。けだるい午後のターミナルステーションでは、マスク姿の人影が、ひどくゆっくりと動いていく。どこか見覚えの…

春空

薄い三日月が天高く浮かび、空は漆黒だ。おぼろ月夜とはほど遠い、冴え冴えとした夜。こうして春は、行きつ戻りつしながら、野山に色を付けていく。晴れた霞の空の下、そよぐ風に湯上がりの肌をくすぐらせたい。心が小躍りする季節、やはり騎上の旅先で味わ…

未来

春、卒業の季節。別れや旅立ちの言葉が、哀愁のある旋律に乗り、心をざわつかせる。そこに、第一志望が叶った歓喜の陰で、唇をかみしめる姿が重なる。そんな背中にこそ、エールを送りたい。かつての自分がそうだったように・・・・・・。 挫折しても、強くなって立…

春来

庭に菜花が咲きそろい、むせかえるような青い匂いが、風に舞う。射し込む光は、ひんやりしたその風をかき消し、空からまっすぐに落ちてくる。どちらが勝つかは推して知るべし。五時を過ぎても昼の明るさは残り、薄紅色の花がほころび、季節は駆ける。

卒業

高校を卒業してからになるのか・・・・・・。 十八で家を出て四十年。まさかこの歳になって、詰め襟の思い出に浸る日々が来るなんて・・・・・・それも日曜日がやってくるたびに。五歳年若の主が留守にする部屋のガラス戸には、三年の時を過ごした校舎の窓がよく映る。震…

春雷

春には似つかわしくない土砂降り。アスファルトを容赦なく叩く雨音は、とてもショパンの調には聞こえない。渦を巻いて流れる雨を、軽四輪の細いタイヤが、波打たせていく。水の裂ける音が、ガラス越しの耳にも届き、遠くから雷鳴も響いてくる。春らしい、漲…

旅心

春に三日の晴れ間なし。その三日目は、空を鼠色で埋め尽くし、遠くに輝く太陽を、時折その薄れた隙間からのぞかせるだけだった。部屋から眺める街角は、さえないグレーをまとい、昨日までの温もりも、ガラス越しに消えてなくなっていた・・・・・・はずだった。 夜…

3月11日

2021年3月11日。メディアがこぞって騒がなくても、たぶん忘れることはない。あれから10年経っても、たとえ20年が過ぎたとしても・・・・・・。でも、被災地にあるような、ひどく鋭利な記憶は、僕には刻まれていない。 高層ビルの非常階段を下り、閉ざされたJRの駅…

3月10日

陽が落ちて、西の空の茜色を背に、桜木のつぼみがかすかに揺れている。北からの風は止み、夜の気配の街を下に、電信柱の明かりが点っていく。 ことさら良いことがあったわけもなく、さりとて悪いことがあったわけでもない。ただただ、青い空が広がり、雲はな…