バイク

何が、何を。

空は朝から夕暮れまで、のっぺりとした鈍色のまま。まるで冴えない気分に塗り込められたかのよう。それでも晴れ間が覗いていれば、上州の山城跡でも眺めに行こうかと、夕べツーリングマップルを繰っていたのだけれど・・・・・・気づけば、遅く起きた朝になってい…

鳥峰

「今度はゆっくり、バイクで来てよ」。備長炭にまかないだろう鮭の切り身を転がす、気さくな声に送られて、裏に返った暖簾をくぐり出る。昨日までの涼風を弾き飛ばした太陽が、まだ南中の近くから、歩道のアスファルトに陽射しを打ちつけている。ゴールウイ…

2021年8月19日

8月19日。今日は語呂良く、バイクの日。ただ、週の中日の木曜日じゃ仕事も佳境、テレワークの身でも、なかなかわがままには振る舞えない。蒸し風呂のようなガレージをのぞき込み、「こんな日にオマエに乗れないなんて」と独り嘯いても、それほど気分が下がる…

夏はバイク!

モトクロスへのモチベーションがあがらない週末。とはいえ、真夏の太陽に青い空。いけない積乱雲も雷鳴も、今はまったく、その気配すらない。となれば・・・・・・昨日、わざわざ買い物に出かけた羽生のショッピングモールまで、使えなかった商品を交換しに行くツ…

戻ってきました

青が突き抜ける空に、雲は白く盛り上がり、アスファルトがハレーションを起こす。極上の真夏に気を良くして、日光で折り返すつもりが金精峠を越えて、ロマンティック街道を老神温泉まで足を延ばす。山の木陰でヒグラシの音を聞きながら、不格好に九十九折り…

名栗

真夏日寸前の金曜日は、空を覆った雲が風を包み込んでいるようで、少し蒸した感じがする。田園の広がる、まっ平らな東の端から西へ・・・・・・県をまたぐように一気に走れば、アスファルトに小高い山の緑が迫り来る。旧知の友と言ったら言い過ぎかもしれない。そ…

冒険 3

<昨日のつづき> はらり地図を開いてみても、知らない道がとんと見当たらない。通りに面しためし屋、角にあるコンビニ、高架脇の遊興施設、ラブホと隣り合わせた道の駅・・・・・・視線がたどる道すがらには、どれも見覚えのあるものばかりが並んでいる。そして、…

冒険 2

<昨日のつづき> keiの煎れてくれた珈琲をすすり、窓越しに初夏の光を眺めていたら・・・・・・少しココロが揺れ動いた。と言っても、これからモトクロスをやろうなんてアグレッシヴな感じじゃない。もっとふんわりした、すぐにつぶれてしまいそうな気持ちの膨ら…

冒険 1

「夕べに準備しておくべきだった」と悔いながら、もう一度瞳を閉じる。それから一時間。週に一度の安息日、外からの照り返しが、薄いカーテンを越えて部屋を明るくする。ようやく半身起こして、この晴れた日曜日を逡巡・・・・・・モトクロスの身支度を思い、空荷…

鉄馬 2/2

<4/15の続き> ジップアップしたゴアテックスジャケットに、フリース地のベストを忍ばせ、短いテンポでギヤを掻き上げる。右手に素直な味付けは、電気仕掛けとは言え、公道でのスロットルワークを十分に楽しませてくれる。肩に当たる陽射しに、風ももう、冷…

鉄馬 1/2

この前に火を入れたのは、いったいいつのことだったか。はっきりと思い出せもしない。確かツーリングでも何でもない、もしかしたら今日と同じように、ただの「お使い」に付き合わせただけだったかもしれない・・・・・・。とにかく埃だらけのカバーをはぎ取り、イ…

倦怠

まさかウイルスの副作用でもあるまいが・・・・・・まったく乗る気にならない。かれこれ四十年近くの付き合いは、KISSに続く長さ、濃淡はあってもけして褪せることはないと思っていたのに・・・・・・。 ただ、振り返れば、地獄の狂獣とも疎遠なときもあったっけ。不機嫌…

覚醒

深く沈殿した気分を覚醒するのは、春の浮かれた陽気だけじゃない。 ほとんど一年ぶりにプラットフォームに佇む。耳に入線のアナウンスが懐かしい。けだるい午後のターミナルステーションでは、マスク姿の人影が、ひどくゆっくりと動いていく。どこか見覚えの…

二代目

「社会人らしく」と手にした4ストロークのパラ4は、その強烈なエンジンブレーキと「タマ」の重さを記憶に焼き付けて、短いやりとりといくつかの思い出を残してくれただけだった。今となっては、その最後も思い出せない。そして、流行りのレーサーレプリカ…

五月の夏 5

いくつかのコーナーを過ぎて、短いフラットな直線が現れた。それでもセンターは黄色いまま、登坂車線もゆずりあいのスペースもない。反射的に対向車線へ出ようとする車体を、理性がためらい引き戻す。一気に詰まるトレーラーの鈍色。その黒ずんだコンテナが…

五月の夏 4

どこか近くの山に採石場でもあるのだろう、路肩と車線を分かつ白線が、砂利で茶色く汚されている。アスファルトに散らばったその欠片を、19インチのフロントタイヤが、いきなり踏みつけた。身構える間もなくリヤが左に流れ、車体が深くバンクする。短絡した…

五月の夏 3

シグナルは赤。相手がRuote 254だからか、県境を越える橋詰だからか・・・・・・それまでの車線が、そこだけ三つに拡がっている。右折を待つ車を避けるようにして白いセダンが一台、左折のレーンにブレーキを合わせた。白くまっすぐな矢印からゴーグルレンズへと、…

五月の夏 2

XG250。「Tricker」の名が付けられた、この249ccのヤマハは、高速移動があまり得意じゃない。それを駆る初老のライダーに、もちろんトリックをメイクするほどの腕もない。ただ、法定速度を少しだけ上回る辺りで流すには、これほど都合よくできたマシンもめず…

五月の夏

五月、晦日。まっすぐ遠くのシグナルが赤に変わったのとほとんど同時に右手を返して、左手がクラッチレバーを握り込む。バックミラーに映るのは、軌跡のように走るイエローのラインだけ。田圃を突き抜けるアスファルトには、誰も居ない。 信号待ち、風が止ま…

ありがとう、Yellow GROM

ryの小さな体をそのコンパクトな車体で北の大地まで運んで、ぐるりと巡った黄色いマシンが、手に入れたところまで帰っていった。それももう、5年前のことになる。大した思い出を刻むことはなかった125ccは、それでもori-chanと初めてのツーリングに出かけて…

「相棒」

「ジクサーの250がもう少し華奢だったら・・・・・・コイツを選んだことをきっと後悔したに違いない」。年代物のラパイドのなかでうそぶきながら、速度計の針が真上を越していかないように、右手を落ち着かせて走る。 SOHC2バルブ、空冷の旧式な4ストロークに今時…

雨の記憶

思い出すのはいつも、レインウェアを着込むしょぼくれた姿。 ただのアスファルトに間口を開いた商店の、そのわずかな軒下に潜り込んでは、吹き込む雨に濡れないように背中を反らせながら、最初にジャケットに腕を伸ばしていく。裏地のナイロンメッシュが革ジ…

2018 夏

「じゃあ、お先に」 「ほな、気ぃつけて」 どこまでも青い空の下、パーキングの焦げたアスファルトから、1台のレトロな4気筒が駆け出していく。肘を曲げたまま、広げた左手を海風になびかせる。両袖を断ち落とした革ジャンの、その背中が逆光の中、黒く小さ…

16インチという名の媚薬

道端の緑が揺れることもなく凪いでいるはずの夕暮れに、突然真横から風がぶつかったみたいに、車体ごとBongoのハンドルが左に持っていかれた。それは、ひび割れたアスファルトにタイヤが沿って走っているだけ、たしかに風なんて吹いてない。細かな隆起とへこ…

房州の恋心

鋸南町の南の外れから鴨川へ。 海岸線を離れて穏やかにアスファルトを流していると、道はすぐに、緑を切り取る急峻なワインディングに変貌する。半島を東西に渡る県道は、まったく通りがなくて、夏を前にした休日にはさほど利用価値がないのかもしれなかった…

短い旅で始まる、ちょっぴり長い旅

KUSHITANIのカントリージーンズに綿のパーカーを合わせて、上から赤いKUSHITANIのGORE-TEXジャケットを羽織る。足下のGORE-TEXブーツにも、両手にはめたデニムライクなレザーグローブにも、同じKUSHITANIのロゴが光り、全身をKUSHITANIに包まれて、GROMのク…

夜に惑う

晴れから午後は天気が急変 雷雨や突風、雹にもご注意 長い休暇はどうやら、荒れ模様で始まるらしい。冬の名残と夏の気配が、春の終わりに悪戯。BongoにRMを積んではみたものの、どうにも気持ちの乗りが悪い。ならば、シートに包まるもう一つの黄色でも転がし…

The Isle of MAN 3(完)

<2017/4/14の続き> 薄桃色のカウルに包まれたマシンと、それを駆る日本人。そして、傍らで支える人の微笑み。時折流れてくるFacebookには、そんなカットとともに、モトクロスコースで行き会う彼女とは違った横顔が、小さく写り込んでいた。声援を送るので…

The Isle of Man 2

<2016/11/26の続き> 羊の群れがはるか丘の上、のんびり草を食んでいる。アスファルトに跳び出さないよう、短く先を尖らせた石の柵がびっしり路肩にめぐらされ、その端で革のツナギを着たライダーがポリスマンと微笑み話している。ポリスマンの手にはスピー…

RVFの風

4ストロークV型4気筒。398ccを抱いたトリコロールが、国道の反対車線を加速していく。スクリーンに身を屈め、遙か前方を見据えるAraiのスモークシールドに、陽射しが割れて落ちる。陽は高く上り、アスファルトに濃く小さな影を連れて、低く濁ったエグゾース…