2018-01-01から1年間の記事一覧

懐古 6(完)

<12/20の続き> L-1のボードを片手に笑うmori-sanが見えた。スターティンググリッドに収まるユージさんが見えた。そして、#2を着けた最新型の後ろに、旧式のYZ85LWをうまく走らせるkojimaさんの姿が見えた・・・・・・。 ラストラップ、第1コーナーを先に立ち上が…

懐古 5

L-1のボードを後ろに回したmori-sanが、大きく左の腕を振り上げて、ゴールラインをまたいだRMを送り出す。あと2周・・・・・・ここまで仕掛けてこなかったのに・・・・・・はっきりと耳に届いていたはずの排気音が、気づけば消えている。今度はカレが、仕掛ける前にしく…

懐古 4

<12/14の続き> 仕掛けるなら・・・・・・できれば一番堪える場所がいい。 そんな邪な心を知らぬままに、青い車影が逃げていく。コーナーの前後で車体が左右に暴れるのは、後ろが気になるから。少し揺さぶりをかけてから、再開した3周目で前に出る。明らかに乾い…

懐古 3

<12/11の続き> 起き上がったRM85Lとコースサイドとの狭い隙間をするりと抜けて、YZ85LWがS字に入っていく。川越市の外れ、入間川の河川敷にあるモトクロスビレッジ。同じ埼玉県なのに馴染みが薄いのは、川越インターを中心にした国道16号線の渋滞のせい。…

懐古 2

<12/6の続き> モトクロスの神様なんかじゃない。 きっとアイツのせいだ。きっと懐かしくなって、ちょっと悪戯したくなって・・・・・・でも、ちょっと悪戯が過ぎた。だから、ぶつけてきた相手に「ドコ見てんだよ、イテェじゃねえかよ!」と、めずらしく怒鳴りつ…

懐古

「大丈夫?」 左のわき腹をさすりながら後ろを振り返ると、青いフロントフェンダー越しに細めた瞳が曇り、静かにこちらをうかがっていた。 曇天の昼下がり、ヒート2。スタート直後の第1コーナー。インベタを狙った二人が揃ってエンスト車に前を塞がれて・・・・…

BRONX BOY 5(完)

オープニングのRip It OutからPrasite、Hard Timesと、彼を知るファンがたまらず席を立ち、グラスを宙に突き出して踊り出す。立て続けに3曲披露して、狭いフロア荒れた息づかいがこだまする。そして、たどたどしいMCとともに、ワイヤードの弦を力まかせにダ…

BRONX BOY 4

暖色に包まれた4Fのフロアが、KISS ARMYに溢れている。東京ドームで出会ったレプリカも当たり前のようにそこに居て、ぐるりとスマホのレンズに囲まれている。オリジナルに負けず劣らず彼も、ここでは大した人気者だ。CAエリアのチケットと引き替えにカウンタ…

BRONX BOY 3

<12/1の続き> エスカレーターで最上階のホームまで上がって、ふと流した視線の先。フリーペーパーの積まれたラックに目が止まった。濃い褐色のレンズに隠れた瞳、口ひげ。腕を組んで首を傾げる姿にレスポール片手に佇むフォルムが透けて見えたのは引力か。…

BRONX BOY 2

<11/20の続き> 9月5日 AM 澄んだ水色に、ちぎれた雨雲が鈍色に流れて、西から空がのびていく。並び翔つ二つの黒い影。アスファルトを撫でる四本のタイヤ。雨に滲んだ歩道に、虫の音がそよぐ。風の薄い、静けさの残る朝。日常がまばらに戻ってきて・・・・・・昨…

BRONX BOY

2,000 Man。アコーステックなストーンズのナンバーを歌っているのは、BRONX BOY。夜明けまで降り続けた雨が、ねずみ色の雲の鱗と北へと流れていって、黒いアスファルトに鈍く朝が滲む。キャビンに満ちた強烈なディストーション、雨上がりの光の中に、まだ暑…

雨のやみ間に 6(完)

<11/10の続き> 朝鮮半島から引き返してくる台風。そいつが近づいてくる前に・・・勢いラフになるスロットルが、寄せるバンクのたびにマシンを暴れさせる。 山肌を削り取っただけの粗い造りのバンク。それを右に折り返し、バンクの広さのままに下りていく。…

雨のやみ間に 5

広がるのは、あまりに開けたインフィールド。晴れていたなら陽射しが満ちて、空の青に包まれるだろうことを、白く光る砂が物語っている。 坂を下りきった底から一度上るようにして、宙にバンクが迫り出す。マシンをしっかり曲げておかないと、縁からダイブ。…

雨のやみ間に 4

<11/2の続き> 三つ並んだテーブルトップは、どれもみな、平板で撫でつけたようにきれいに設えてある。最後の一つ、そのなめらかなランディングを右に見て、パドックからは左に直角に折れて、コースイン。すぐにホームストレートなのだろうか、ただ広がりを…

雨のやみ間に 3

しばらく話し込んで、ネロにおやつをもらって・・・雨のやみ間を気にかける風でもなく、のんびりとまたハードトップを転がし始める。こうした感じも、鮫川の日が思い出されて気分がいい。空も少し明るくなって、ときおり雲の裂け目から陽ものぞいている。た…

雨のやみ間に 2

誰もいない受付小屋を右に見て、棚田のようなパドックらしき広場までゆっくり上に進んでいく。停まっている車は一台だけ。ただのステーションワゴンで、中にマシンを積み込んでいる雰囲気はない。山の中に迷っただけのようで、どこからコースになるのかもわ…

雨のやみ間に

枝葉の先、雲間にのぞいた淡い水色。どこからか風に流れて雨粒がひとつふたつと、ゴーグルのブルーレンズに弾けて消える・・・。 「千歳が雨でも、札幌が降ってないってこともあるからねぇ」 隊に居た頃の記憶か、浅い四年の経験からか・・・助手席がボソっ…

光と赤いセロハンと

夜明け前、薄く濡れた歩道の上に、光が注ぎ出す。 予報は一日中、雲の中にあるはずの金曜日。走る車窓からは光が斜めに差し込んで、左の耳たぶだけが熱を帯びてくる。目の前に座る女子高校生は、陰をまとい、押し当てた赤いセロハンを懸命にすべらせ、わずか…

九月もあと三日

濃く霧が立ちこめて、東の空に月のような太陽がぼんやりと浮かんでいる。夜気は壊されることもなく漂い、昨日の肌寒さを身体が思い出す。 少し遅れてやってきた各駅停車に腰を下ろし、文庫のページをいくらか繰っていると、やがてエッジの利いた光が車窓から…

雨の記憶

思い出すのはいつも、レインウェアを着込むしょぼくれた姿。 ただのアスファルトに間口を開いた商店の、そのわずかな軒下に潜り込んでは、吹き込む雨に濡れないように背中を反らせながら、最初にジャケットに腕を伸ばしていく。裏地のナイロンメッシュが革ジ…

2018 夏

「じゃあ、お先に」 「ほな、気ぃつけて」 どこまでも青い空の下、パーキングの焦げたアスファルトから、1台のレトロな4気筒が駆け出していく。肘を曲げたまま、広げた左手を海風になびかせる。両袖を断ち落とした革ジャンの、その背中が逆光の中、黒く小さ…

rendezvous 4

<7/9の続き> 時間もそろそろ半分を過ぎた頃、ひときわ強く、腹に響く音が割って入ってきた。同じ4ストロークエンジンでも、プラス100ccとIBの腕で、エグゾーストはここまで暴力的になる。Sの字を倒したような下りから、コブとテーブルの続くコの字をした…

rendezvous 3

<7/3の続き> 「これで最後」と二人で決めた20分のクール。後ろからぶつかる音の輪郭が、やけにはっきりとしている。どうやら私の125ccは、カレの射程の内を走っているらしい。オーバーレブにかまうことなく坂を駆け上がり、頂点で切り返す2ストロークのエ…

rendezvous 2

コーナーのずっと手前から右半身がブレーキングを始めてしまっては、いざ曲がろうとしてもサスペンションが伸び始めて・・・マシンがまったく傾かない。重心の高い、タマの軽い2ストロークフルサイズにこの走りは、致命的だ。浮き砂の吹き溜まる向こうに、砂…

rendezvous

あれほど大きく、手に負えないはずの車体が手のひらの中、小指の先ほどに小さくうごめいて・・・自慢のネオンイエローも、よくわからない。少し屈めた背中は、軸と平行のまま、シートの真上からほとんど動かない。それでも迫る4ストロークの破裂音を従え、逃…

頑張れ、高校生!

四則計算と一次方程式と。 分数のわり算で分子と分母をひっくり返すくらいの、そんなわずかばかりの記憶しか残っていない。まだ鍛えようのあった脳みそで必死に覚えた公式の数々も、いざ問題が配られると、どれになにを使えばいいのかわからずだったことが、…

六月まよえる金曜日

水の月に入って一週間、再び金曜日がやってきた。 梅雨入りしてすぐ、陸から南の海へと離れていった前線が、連日、夏の陽射しを届けてくれている。わずか一日降っただけの雨はすっかり土に消えて、アスファルトには照り返しの陽炎が舞い上がる。その光に惑わ…

六月はなやぐ木曜日

雨は夜のうちに止んで、アスファルトの水たまりも小さくなっている。かすれた空の雲間を朝の光がうっすらと照らして、肌にしっとりした空気が触る。いつもの地下鉄に乗り込む人の波は、誰も雨傘を手にしていない。 10人がけの座席の、ちょうど真ん中あたり…

六月ものうい火曜日

空が無くなった。 昨日までの、あのカラリとした風は凪いで、濃く湿った空気に、街並みも静かなままで居る。雪崩を打つかのように沿線の緑もべったりと軌道に垂れ下がったまま、揺れもしないで居る。 発車を告げるアナウンスは、どこか重たげにくぐもって、…

六月はじめの月曜日

澄みきった空の青に、いくつもの層雲が白く、荒い曲線を描いている。どれも筆に迷いがあるようで、一気に書き上げた風でもなく、ところどころで曲率が変わり、どこかいびつなまま、その純白だけが冴えている。 足下の緑は勢いを増してまっすぐ立ち上がり、縫…