2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

それでも開けて走る 2

まったく、このまま夏がやってくるのを待たなければ、乾いた極上の路面にはお目にかかれないのかもしれない・・・そう、弱気になってしまうほど、日曜のMX408も雨をたっぷり吸い込んで陽射しに揺らめいていた。土曜日の昨日は、風も太陽も空にあって、すっか…

それでも開けて走る

何一つ思い通りに走れなかった。密かに描いたコーナーリングも、フープスに連続したコブを抜けるカラダの使い方も、テーブルトップの斜面をたどる勢いも・・・思ったようには、うまくいかない。どこかで聞いたことのある台詞をヘルメットの中で吐き出しなが…

意気地なし 5(完)

次第に粘り、重たくなる泥。そして、ただ一つのラインは、加速と減速のたびにギャップが深くなっていく。下り坂にできあがった雨水の通り道は、小さなクレバスのように路面をひび割り、フロントタイヤを簡単に払いのけようとする。粗いブロックパターンの隙…

意気地なし 4

9時10分を過ぎてコースへ分け入ったのは、kyoheiくんのKXだけだった。不規則にあえぎながら、他に誰もいない泥の上、甲高い排気音がでたらめに駆けていく。有り体に言えば、まだ「シャバシャバ」なのだろう、うっすらと褐色をまとうだけで戻ってきたKAWASAKI…

意気地なし 3

先に到着したkyoheiくんが、今日の愛機、KX85-Ⅱをパドックに立てている。彼女にベタリと張り付いたままの相棒nabeちゃんにかまうことなく、さっさと着替えをすませ・・・めずらしく朝から走る気十分だ。訳は先週のエンデューロレースの結果にあるらしい。そ…

意気地なし 2

<11/21の続き> ベースプレートぎりぎりまですり減ったCRF150R-Ⅱのブレーキパッドを見つけたのは金曜日の夜。あわててざりままにメールを出してみたら、あっさり谷田部行きを宣言されて・・・他に予備のパッドを持っていそうな知り合いに心当たりもなく、ワ…

渋にて ~後編~

<11/22の続き> 「いやー、熱くて熱くて。熱くて入れないんですよ、すみません」 湯船に向かって遠慮がちに水道の栓を開放する父親。そして、小学一年生ぐらいだろうか、ぼやけた視界のなかで、仲良く湯船の縁にヒザを抱えて座り込んでいる。子どもには確か…

はぐくまれるモノ 4(完)

<11/19の続き> 赤いSのマークを背にして展示会場から、海の見える外へとつながる通路に抜け出る。共に巡った連れがトイレに行っているつかの間、壁際におかれた長椅子に腰を下ろし、丸めた雑誌風のパンフレットを開いて、ぱらぱらと見返してみる。よく知る…

渋にて ~前編~

日本人もまだ捨てたもんじゃないという思いと、遠く北の大地へ巣立っていった愛息との記憶が、信州のいで湯、渋温泉大湯の湯気にとろけて流れていく。 <つづく>

意気地なし

子どもの頃から変わらない。それはゆるい泥にまみれたMX408でも変わらず、自在にKX85-Ⅱを操り、アウトバンクでブレーキターンを決めて軽やかにテーブルトップを跳び上がる。その後ろ姿に追すがることもできずに、思いを吹っ切れないまま、85SXが不用意にライ…

雨の最終戦 4(完)

<11/15の続き> フロントフォークが大きく沈み、ヘルメットは前方に投げ出され、ステップから離した右足が空を切る。さっきまで目の前にあったスターティングバーは、落ちる途中、まだ深いフロントタイヤのブロックに喰いついていた。「ちっ、喰われた」と…

はぐくまれるモノ 3

雛壇にあがったH2Rの横に、250ccの市販車と125ccの市販予定車が並ぶのは、当世流なのかもしれない。会場でも図抜けた広さを誇るHONDAのブースは、四輪と二輪が一緒に飾られ、かえって人の流れが読みにくい。それでも辺りを魅了しているのは、憧れの音速マシ…

はぐくまれるモノ 2

<11/7の続き> 無機質の、やけに高く感じる天井からは、自動車メーカーの紋章が深く垂れ下がり、足下には深紅の絨毯がやわらかに敷き詰められている。通路が広く取られているのは、余裕があってうれしい反面、どこか寂しさを感じてしまう。ゆりかもめの最寄…

乾く間もなくて

帰り道、軽トラのフロントガラスに音を立てていた雨粒が、それからもずっと舞うように落ちていたのだろう。夜の闇に紛れた空は、黒く薄い雨雲に覆われてしまって、街や通りを静かに濡らし続けている。まったく「乾く間もなくて・・・」と、耳になじんだ昔の…

うたかたの

わずかに3年。 それゆえ色濃く記憶に残るグリーンモンスターに、走り続ける勇気をもらう。まだまだ、これから。萎えて消え行くには、少し早すぎる。

雨の最終戦 3

<11/12の続き> 第1コーナーのバンクから、走り去るCRFのリヤタイヤを引き戻すようにして、ゆっくりと息を吐く。視線をフロントタイヤの右横、バーを支えているピンに戻して、息を止める。いっせいに吠えだしたはずの轟音は、まったく耳に届かない。心臓の…

雨上がりの明日には

キーボードを叩く音の輪郭が、大きくはっきりと聞こえてきた。さっきまで混じり合い響いていた雨音は、いつしか消えてなくなり、無機質な打音だけが、二つの耳にまっすぐに届いている。重たい遮光のカーテンを開き、レース越し、水滴ににじんだ出窓のガラス…

もう・・・

狭い玄関のなか、後ろ脚を軸にして回り続けるネロに何とかリードを着けて、冷たい感触の引き手を取り、夜に出て行く。通りの電柱につけられた灯りが、白く光るように路地を照らしている。雨がもう、音も無く舞うようにして、アスファルトを黒く濡らしていた…

雨の最終戦 2

<11/8の続き> 午前中にレースを走るなんて、思ってもいなかった・・・。 110(ワンテン)のレースをみているうちにグリッドが埋まってしまって、#41を着けたCRF150R-Ⅱは、わずかに残った隙間に収まるしかなかった。左端から2番目にフロントタイヤをねじ込…

泥とワダチと新しい出会い 7(完)

いつしか見なくなった人もいれば、こうして新しく出会う人たちがいる。初めてのことばかりに面食らっていた旧いMX408は、今では、ソーラーパネルに埋め尽くされて・・・高低差をうまくつなぎ、楽しくも難しい造形が、新しいMX408として戻ってきた。時は止ま…

泥とワダチと新しい出会い 6

カラダ中、とりわけ右の手首から肘にかけてがパンパンに固くなるほど、チカラを入れすぎて走っているから、すぐにブレーキレバーを引けなくなって、マシンも押さえつけられなくなる。そして、こうした日には、基礎的な技量の無さにむき出しになる。もう10年…

泥とワダチと新しい出会い 5

<11/6の続き> もっとずっと乾いていると思ったのに、とんでもない。とにかくまっすぐに走らせることの叶わない泥が、コースのすべてを覆っている。弱い加速にフロントタイヤは、その泥に突き刺さり、リヤタイヤが泥をはじいて空転しては、前に出るチカラが…

雨の最終戦

ベッドにもぐり込み、こうして雨に濡れた一日を思い出していると、つくづくCRF150R-Ⅱとは相性がよくないのだと、ついつい誰かに話したくなる。それとも、85SXを大事にガレージにしまい込んで、愛機を泥だらけにされて、muraがへそを曲げてしまっただけなのか…

はぐくまれるモノ

同じ湾岸エリア、東京湾を挟んだ反対側から場所を移したことにも気がつかないほど、足が遠のいていた。それでも気になるのは、クルマにもバイクにも夢を馳せて、多感な時期を過ごしてきたからかもしれない。ひととき少年に戻れるのならそれもいいと、無理矢…

泥とワダチと新しい出会い 4

「ゆっくり回るつもりが、ゆっくり走れなかった」と、パドックに帰ってきた彼女は、そう笑った。ゆっくりでも走っていられないほど、路面はユルく、コースはグチャグチャだと言っているのだ。ようやく85SXを水たまりの残るパドックに下ろしていたのに、彼女…

泥とワダチと新しい出会い 3

<10/21の続き> ホームコースだとしても、その日の一周目、朝一番でコースに入るときは、たいてい様子を見ながら流すもの。今さら誰も言いはしないけど、そう決まっている。 今日のように土や砂が水をはらんで、タチの悪い泥になっているのなら、それはなお…

KISS Kruise!

セカンドアルバムから5曲、Goin' Blindを除いて、どれもライブではお目にかかれない、マイナーチューン。だけじゃない。よく見れば他にも、観たことのない曲ばかりをずらりと並べている。約束されたセットリストにも十分酔えるけど、こうしたサプライズはま…

274.6kmの休日 6(完)

峠に近づいた途端、車線が一気に消えてなくなり、鬱蒼とした林の中は、濡れた細道になった。先行して逃げ切ったのはGROM、今日のところはワタシの勝ちだ。枯れ葉がはりついて滑りやすくなった路面を、そのままのオーダーでゆっくりと下っていく。突き当たっ…

274.6kmの休日 5

前をゆずられたori-chanと、愛機の4ストローク125ccオートマエンジンが、低くうなるように回り、小砂利を蹴り散らしてアスファルトを駆ける。不意をつかれて大きく車間を開けられてしまう。少ない排気量に、強くなる勾配。気まぐれに降る光の中を、意地にな…

274.6kmの休日 4

目指す粕尾峠の荒れ具合が想像できないほど、2車線を保つアスファルトが思川に沿って左右に揺れながら、ゆるやかに高度を上げていく。途中、東屋と簡易トイレが据え付けられたポケットパーキングにマシンを停めて、二人並んで缶コーヒーを啜っていると、遠く…