仕切り直しの日曜日

雲は多いけど、朝から何の心配もいらない晴天。積みっぱなしのRMと“準備”一式を載せて、Bongoが昨日と同じ道をたどる。日曜の朝は道も空いていて・・・30分もしないで、半谷モトクロスパークの入口に到着だ。「明日は開けますから」の約束どおり、ゲートは開放されていた。竹の落ち葉をタイヤで踏みしめながら、パドックに出る。左にも正面にも、トランポが一台も見えない。8時30分、どうやら一番乗りらしい。

受付小屋の近く、木立の下にBongoを停める。乾ききった大地は、Bongoのタイヤが軋むたびに土埃を上げていたらしく、うっすらと茶色の風が地面すれすれに流れていた。エンジンを止めると、風が木の葉を揺らす音と鳥のさえずりしか聞こえない。木陰で瞳を閉じていると、これからモトクロスをやろうという気さえ薄れていくようだ。水タンクとブーツをクルマの外に出して、RMにかかったタイダウンベルトを緩めてやる。

RMを下ろして、あれこれと準備を始めると・・・走ってもいないのに、額や首筋を汗が伝い落ちる。着替えるだけで汗にまみれるのは、不快と言えば不快、でも、夏らしくてなぜか許せてしまう。ゆっくりと支度をしたはずなのに、他にトランポが入ってくる気配もない。RMのキックペダルに手がかかり・・・人工的な音が一切聞こえなかった林に、2ストマシンの金属音がこだまする・・・河川敷を必死に走っていた記憶が、不意によみがえってきた。

厚く砂の浮いたコースを横切って、ちょうど上ってくるストレートの端。まだ誰も居ないのをいいことに、右と左と数回ずつ旋回・・・砂上の挙動に体を慣らしてから最初のリズムジャンプを越えていく。先週は黒光りしていたコーナーも、すっかり水気を失って、ボロボロとこぼれるように白く干からびている。同じ滑るのでも、乾いた土に脚をすくわれた方が・・・気分が明るくていい。一気に転んで痛い思いをするのは、どちらも一緒だけど・・・濡れた路面にこすりつけられるよりはマシだ。

一週間と空けていないから、コースがよく見える。二周目からは「いくぞ、全開」とばかりに、車速を乗せていく。跳べない連続ジャンプはそのままにして、程良く“噛んで”くれる逆バンクを中心に、ひどく真面目に攻めて走る。コースの立ち上がりで、何度かエンジンがこもったようにもたつくRM。この気温だ、もう吹けてもいいはずなのに、ギヤを一つ落とすか半クラッチを当てるかしないと、思ったように加速してくれない。特にストレートへと続く連続ジャンプセクション。シングルジャンプに向かう短い直線は、上りながら跳び出していくだけの速度がほしいところ。できれば3速のままで駆け抜けていきたいけど・・・どうしても長めの半クラッチが必要だった。一瞬の失速が、取り戻せない。上手く調子が出ない。

コースの上に一人・・・では、やはり張り合いがない。おまけに両脚も上半身を支えるのが辛くなってきたみたいで、太股の筋肉に乳酸がたまったのがわかる。フープスを抜けるまで本気で走って、スロットルを閉じ気味にしながら、第一コーナーの先からコースを出ていく。Bongoの隣にはFARGO、ゼッケン20を付けたCRF250Rが降ろされていた。ミニコースに向かい合うパドックにも軽のワゴンが停まっている。とりあえずこれで3台になった。隣の若い兄ちゃんに軽くお辞儀をして、RMを三角スタンドで支えてやる。初めて見る顔だ。ヘルメットを脱ぐと、顔中に汗が流れ落ちてきた。きっと上気した真っ赤な顔をしているんだろう、ちょっと気の毒そうな、でも若く優しげな視線が向けられていた。

<その2に続く>