モトクロス

うれしいやら、かなしいやら

「土日ってモトクロス、行けるの?」 三年ぶりの帰省に、やっぱりモトクロスなのかと嬉しくなるやら哀しくなるやら・・・・・・他にないのかね、この三十路の男にはと、心配になる。 それでも、次の日曜日、コースに集まってくれるモトクロス仲間がいる。TEAMナノ…

いつになったら

西の陽が雲間に隠れてもまだ、昼の熱がシャッターの奥にこもるガレージ。その暗がりに、独り立つ。マシン三台が、何も言わず、定位置に整列している。どれにももう、しばらく乗れていないか・・・・・・。明日の夜からまた、梅雨のような日々だと天気予報士が言う…

リトルレーサー 6

テーブルジャンプのトップよりも高いところから、コースを見渡し、跳び去る車影を左から右に目で追いかける。そんなギャラリーに湧くコースサイドへと、流す視線も余裕も、今は何もない。それでも着地のリバウンドを何とか抑え、ふらつきながらもフィニッシ…

リトルレーサー 5

瞬間的に体が置いていかれる感覚を残して、RM85Lがストレートを疾駆する。コーナーの立ち上がりでリアが大きく流れるのは愛嬌、人間のギヤも掻き上げて、最後の左から第1コーナーのアウトバンクへと加速を決める。ロングストレートエンドでフロントに頼った…

リトルレーサー 4

スロットルにいっさい反応せず、まったく加速をしない愛機。第1コーナーからの立ち上がりも、その先、408コーナーからも。もう笑うしかない。ただ、ミドルクラスのオープニングラップは、ここをホームコースにしている身には、いささかスローペース。機嫌の…

リトルレーサー 3

5秒前にボードが切り替わり、スターターがコースサイドへと逃げていく。右手に反応するのは中間の開度まで。スロットルを絞りきろうとしても、途中で息を付くエンジンに慌てて右手を返す。そして、弱く小さな排気音を響かせる中、スターティングゲートが落ち…

リトルレーサー 2

キックペダルを踏み下ろせば、エンジンは掛かる。しかし、自慢の2ストロークエンジンは不機嫌で、まったく吹け上がらない。右手を思いきり手前に捻ると、くぐもった排気音を残して、息付きを起こす。そして、エンジンストール。ピットロードから描いていた青…

反省

マシントラブルでも何でもない。 キャブレターのブリーザーホースが、泥で詰まっていただけ。そして、そのことに気づいたのが、レース直後でもない、一日経って今日のこと。我ながら情けないやら悔しいやら。 子どもたちにイイところを見せたいのなら・・・・・・…

リトルレーサー 1

「がんばってくださいね、おうえんしてますから!」、思いがけないリトルレーサーからの一言に背中を押されて、スターティンググリッドへ走り出す。ピットロードからグリッドを眺めれば、一番アウトのグリッドが、まだ空いている。ヒート1の借りを返すには十…

脱臼

派手にカマした前転の代償は、「肩鎖関節脱臼」という聞き慣れないものだった。 ただ、ようやく見つけた救急病院の診察室では、これと言った処置もなく、見せられたレントゲン写真の左肩は、思っていた脱臼のそれとはまったく違っていて、鎖骨の外側の端が完…

回帰

褐色の水しぶきがゴーグルレンズに弾ける。水に隠れた傾斜にリアタイヤが左にズレて・・・・・・一瞬気持ちが抜けかかっても、すぐに右手がスロットルケーブルを引き絞る。そして、フロントタイヤが土から離れて、二つ目の水たまりは、ブーツを濡らさずに加速する…

至福

乾ききった路面から容赦なく砂埃が舞い上がり、リアタイヤだけじゃなく、フロントタイヤも勢い横滑りして逃げ出す始末。ひと月振りのモトクロス、ポンコツな身体の芯に、新しいレイアウトが痛く響く。まったく攻められない歯がゆさを抱えながら、それでも跳…

裏腹

「ホームコース」と言えるほど乗り込めなかったレイアウトが、知らないうちに変わってしまった。ロングストレートに大バンク、キャメルジャンプ・・・・・・コースは大きく生まれ変わったらしい。稲敷に引っ越してから初めての大改修。設計した現役IAライダーの太…

悔恨

午前五時。夜明け前にベッドから這い出て、出窓に掛かるカーテンを引いて、外を見た。乾いたアスファルトと同じ色をして、空が重そうに街並みを包んでいる。早起きはしてみたものの、計ったような曇天に、思わず口が歪む。顔を洗って、一口珈琲を啜って、ネ…

逡巡

昼前から雨模様とは・・・・・・週末の神の気まぐれにも、ほどがある。そして、繰り返される逡巡。いっそのこと朝から雨が落ちてくれればいいのにと願うのは、自分勝手のわがままと言うものか。ひとまず早寝早起き、それから考えるとしよう。夜積みも終わっている…

夜積

北から強く吹き抜ける風で、冬の青い空がいっぱいに広がった週末。それでも陽射しの強さは相変わらずで、空気は春の陽気を抱いたまま、肩から力が抜けていく。構えていた仕事に肩すかしを食らって、ひさしぶりのホーム遠征を前に、これまたひさしぶりの夜積…

満足

「何もそこまで」と、曇天の夕暮れを西に向かって走る。そして、ちぎれたテーピングの痕を眺めながら、「少しやんちゃが過ぎたか」と独り言つ。 4ヶ月ぶりのYZ125はかなり手強くて、どうにも曲がってくれない。元IAのアドバイスを鵜呑みに走り出すと、しばら…

トモダチ

2019.11.10。 もうどこをどう走ったのか、肌を触る空気の感触すら残っていない・・・・・・。 KISSよろしく、このままEND OF THE ROADになりそうなところを、救ってくれたのはトモダチ。弥生を思わせる穏やかな温もりと、乾きすぎていない路面。程良い台数に、昔な…

あの思い、再び。

パドックで手を抜く自分を呪い、低く短いテーブルに向かってまた、左の人差し指が動く。 斜面にかかってようやく、軽く引かれたクラッチレバーに2スト85ccが吹け上がり、リヤタイヤが勢いエッジを蹴りつける。そのままフロントタイヤは天を仰ぎ、RM85Lの黄色…

この日僕は

途切れてしまった糸を繋ぐことはもう、できなかった。 「ラスト1周」のボードをくぐり抜けて、ホームストレートエンド。第1コーナーを苦手なインサイドに寄せ付けて、右へと折り返す。直前に撒かれた散水の痕が立ち上がる直線へと孤を描き、うっかり右手を開…

懐古 6(完)

<12/20の続き> L-1のボードを片手に笑うmori-sanが見えた。スターティンググリッドに収まるユージさんが見えた。そして、#2を着けた最新型の後ろに、旧式のYZ85LWをうまく走らせるkojimaさんの姿が見えた・・・・・・。 ラストラップ、第1コーナーを先に立ち上が…

懐古 5

L-1のボードを後ろに回したmori-sanが、大きく左の腕を振り上げて、ゴールラインをまたいだRMを送り出す。あと2周・・・・・・ここまで仕掛けてこなかったのに・・・・・・はっきりと耳に届いていたはずの排気音が、気づけば消えている。今度はカレが、仕掛ける前にしく…

懐古 4

<12/14の続き> 仕掛けるなら・・・・・・できれば一番堪える場所がいい。 そんな邪な心を知らぬままに、青い車影が逃げていく。コーナーの前後で車体が左右に暴れるのは、後ろが気になるから。少し揺さぶりをかけてから、再開した3周目で前に出る。明らかに乾い…

懐古 3

<12/11の続き> 起き上がったRM85Lとコースサイドとの狭い隙間をするりと抜けて、YZ85LWがS字に入っていく。川越市の外れ、入間川の河川敷にあるモトクロスビレッジ。同じ埼玉県なのに馴染みが薄いのは、川越インターを中心にした国道16号線の渋滞のせい。…

懐古 2

<12/6の続き> モトクロスの神様なんかじゃない。 きっとアイツのせいだ。きっと懐かしくなって、ちょっと悪戯したくなって・・・・・・でも、ちょっと悪戯が過ぎた。だから、ぶつけてきた相手に「ドコ見てんだよ、イテェじゃねえかよ!」と、めずらしく怒鳴りつ…

懐古

「大丈夫?」 左のわき腹をさすりながら後ろを振り返ると、青いフロントフェンダー越しに細めた瞳が曇り、静かにこちらをうかがっていた。 曇天の昼下がり、ヒート2。スタート直後の第1コーナー。インベタを狙った二人が揃ってエンスト車に前を塞がれて・・・・…

雨のやみ間に 6(完)

<11/10の続き> 朝鮮半島から引き返してくる台風。そいつが近づいてくる前に・・・勢いラフになるスロットルが、寄せるバンクのたびにマシンを暴れさせる。 山肌を削り取っただけの粗い造りのバンク。それを右に折り返し、バンクの広さのままに下りていく。…

雨のやみ間に 5

広がるのは、あまりに開けたインフィールド。晴れていたなら陽射しが満ちて、空の青に包まれるだろうことを、白く光る砂が物語っている。 坂を下りきった底から一度上るようにして、宙にバンクが迫り出す。マシンをしっかり曲げておかないと、縁からダイブ。…

雨のやみ間に 4

<11/2の続き> 三つ並んだテーブルトップは、どれもみな、平板で撫でつけたようにきれいに設えてある。最後の一つ、そのなめらかなランディングを右に見て、パドックからは左に直角に折れて、コースイン。すぐにホームストレートなのだろうか、ただ広がりを…

雨のやみ間に 3

しばらく話し込んで、ネロにおやつをもらって・・・雨のやみ間を気にかける風でもなく、のんびりとまたハードトップを転がし始める。こうした感じも、鮫川の日が思い出されて気分がいい。空も少し明るくなって、ときおり雲の裂け目から陽ものぞいている。た…