続 アラバスタに雨が降る 6

二本目を走らずに戻ってきたのは正解だった。まばらだった白い線は、すぐにびっしりと密になって、霧のようにあたりを煙らせた。パドックのあちこちにできた大きな水たまりは、ひとつ、またひとつとつながって池のように広がり、たまった雨が少しでも低いところに向かって、勢いよく流れている。東風が時折強く吹いては、跳ね上げたままのバックドアーをすり抜けて、左肩から肘にかけて濡らしていく。向かい側に停めているトランポには、後ろから雨がまともに吹き込んでいて、一台、また一台とドアを閉め始める。nakaneさんのハイエースは、まだバックドアーが開いたままだ。その下に、右足にだけモトクロスブーツを履いた後ろ姿が見える。両足を肩幅よりも少し開き、両手を腰に当てて、まったく動かないでいた。

空がそのまま落ちてきたように、うっすらと灰色の空間に、雨が茶色の水しぶきを上げている。コースは無人、極上の10分も一緒に溶けてなくなってしまったかのようだ。何も考えることができずに、ただ降り続く雨を見つめている視線に、真っ白な軽トラが映り込んできた・・・uchinoさんだ。さっきまでとは違うヘンな笑いが、腹からこみ上げてくる。とにかく笑わずにはいられない。豪雨に打たれた運転席で、走行申込書を書き込んでいるのが見える。「この雨で・・・走るんだ」。荷台の上、KTM85SXが橙色の車体を雨にさらしている。「下のコンビニは降ってなかったのに」受付をすませてから、そのままnakaneさんの横へは行かず、わざわざワタシの前で助手席の窓を開ける。めずらしく「降ろさないで帰る」と言わないところをみると今日は・・・走る気らしい。

<つづく>