続 アラバスタに雨が降る 5

<9/8の続き>

「ワイパーが効かないほどの土砂降りだった」成田方面から、nakaneさんがやってきたのは、もう一度コースに出ようかと準備を始めたときだった。「こっちは降ってないだ。利根川越えただけなのに・・・」言葉ほどには驚いた様子もなく、淡々といつものような調子で話す。こちらからは、朝からぜんぜん降っていないこと、そして未だかつてないほどに”上質”な路面であることを、熱っぽく話してみる。少し笑っただけで、その表情からは、どこまで伝わったかわからない。まあ、彼にとって、路面の善し悪しはあまり関係無いのかもしれない。とにかく雨が降っていないことには喜んで、#2を着けた愛機CRFをハイエースから降ろすと、悠々と着替えに取りかかる。その姿を二列先に眺めながら、ヘルメットをかぶり、RMと一緒にコースへと向かった。

すぐには第一コーナーに入らず、スターティンググリッドの前で、左回りの弧を描く。路面が良くても、左の旋回は、どうも苦手だ。うまくない。右腕のまっすぐな感じを確かめながら、RMのフロントタイヤが三個目の円に差し掛かったところで、ゴーグルに雨粒が弾けた。「向こうのあの雲、怪しいね」走り出す前、saitoさんが指さしていた雨雲が、東の空から頭の真上にかかっていた。「前が見えないほどの」土砂降りが来るんだろうか?そんなことを考えているうちに、ヘルメットを叩く雨音が強くなっていた。クリアレンズのゴーグル越し、黒ずんだ灰色の雲に覆われた空が、低く垂れ込めている。雨音の間隔は、だんだんと短くなって・・・さあーっと音を立てながら、路面を濡らし始めた。

<つづく>