イバMOTO#3~後編~

<6/5の続き>

“速さ”が足りなくては、どうしようもないけれど・・・うまく追い上げられないレースは、とことん気持ちがしんどい。おまけに、一週間降り続いても、ゆるむことがないんじゃないかと思えるくらいに乾ききった路面と散らばる小石に、コーナーからの脱出が、どうしても一呼吸遅れてしまう。だから――前がどんどん離れていって・・・気持ちが負けそうになる。ホームストレートの端で声をあげるiguchi師匠だって、その顔が笑っているのか怒っているのか、いったいどんな表情をしているのかさえ、視界に捉える余裕がない。薄い栗色の鹿の子シャツから伸ばした左腕を、勇ましく振り回す師匠に・・・ただうなずくのが精一杯だった。

“踏ん張り”が効かないのは、あまりに乾いたせいなのか・・・かさついた気持ちがひび割れるようにして、カラダの動きをバラバラにしていく。リヤブレーキを使うのが下手で、ついつい頼りにする右の人差し指も、右腕全体がパンパンに腫れていては、うまく動いてくれない。かわせたのは――サンドセクションにつかまったryoのCRFだけ。uchinoさんのKTMには、フープスの出口で並ばれて・・・そのままちぎられてしまった。直線番長の名折れ。ただ、そこまで前を走れていたのは――スタートの前、もう一つ心に秘めていた「uchinoさんよりも先に第1コーナーを回る」ことが、首尾よくいったということ。それだけはうれしかった。でも、それだけ――カズマサに教わったはずのサンドセクションでも、nakaneさんの転倒が思い出されるばかりで、カラダの上半分に力が入りっぱなし・・・ひさしぶりのmachiさんにもカッコイイ走りを見せることなく、時間だけが過ぎていく・・・。

ラスト1周――takeさんが、うつむくワタシにもよく見えるように、ボードを突き出してくれた。最後の1周。もう後がない。複雑な気持ちで、ただヘルメットを数回、上下させて、左旋回からホームストレートへと駆け出す。前を行くuchinoさんに、もう一度だけ近づいて、できれば驚かせたい。絶望的と思える間隔のまま、第3コーナーからフープスへ。不格好に跳ね上げられるKXの上から連続したコブの先を見やると、KTM85SXが高速の左コーナーに合わせながら加速を始めていた。追いつくにはもう・・・「イクか!?」と、バックストレートを折り返した先にある“ダブルジャンプ”に心が騒いだ。フープスを抜け出て、そのバックストレートを折り返す瞬間、右手はもう、うまくスロットルを握れないでいた。気持ちとカラダがバラバラのまま、挑むのはちょっと危ない。最後の“機会”を、KXの両輪が、触れるようになめて走る。同じ2ストロークで何が違うって言うのか・・・はるか遠くでチェッカーを受けたはずのkyoちゃん、そして、ストレート一本分の差でフィニッシュラインをまたいだuchinoさん――何かを捨てないと・・・この二人には着いていけないようだ。二人の後、saitoさんのチェッカーフラッグを静かに受ける。結局、惨めに敗れ・・・この前のHERO’Sに続いて連敗。熱と埃ではりついた喉からは、ひとつも声が出てこなかった。