初めての夏休み

不規則に信号に止められるだけで、動かない車列にイライラすることもなく、制限を少し越えた速度で流れていく。この季節、都心の道路は本来の姿を取り戻す。

ウインカーを上げて車線を変えるのは、右折や左折のクルマを交わすときだけ。それも誰の邪魔もしないで、広い3車線を小さな軽自動車が泳ぐ。黒い雨雲は強めに吹き始めた海風にはらわれて、空にはまぶしい太陽。エアコンを23℃に設定しても、車内はじんわり暑くなってくる。

また左折のクルマに止められそうになって、ルームミラーに視線を合わせてから、右にウインカーを倒す。さっきまでそこに映っていた短髪は居なくなり、もちろん声もしない。瞳を閉じると、重たそうに左へ旋回しながら、黒い雲に割っていったANAの機体が浮かんでくる。

新橋からは地下道をつなぎ、日本橋を過ぎて秋葉原に出ると、青地の道路案内板に、「春日部」の白い文字が見えるようになる。道が国道4号線に変わっても、よどみなくクルマは流れて、ちょうど草加に入った頃、スピーカーから携帯の呼び出し音が響いた。