ヒビキ 4

YAMAHAのYの字を模したメーターパネルの中央にニュートラルを示す緑色が点るのを確認してから、幅の広いシートにまたがり、キックペダルに右足をかける。そのままゆっくりと足を下ろすだけで、並列2気筒の2サイクルは、ポロロッとあっけなく目を覚ます。大きく車体を揺さぶりながらアイドリングするRZ。右足と左足を交互に使ってタンデムバーを水平に倒して、ヘルメットをかぶったヒビキに目で合図を送る。シールドを上げた開口部から、大きな白い歯の並ぶ口元まではっきり見えていた。

ただの“足”代わりなのかと面倒に思っていたら、そうではなくて、初めから京王線の終着、高尾山口駅の先まで行って折り返してくるルートがお気に入りだった。白亜の校舎を右手にまくようにして遊園地の前まで下り、京王線の支線に沿ってゆるく蛇行するアスファルトをぬっていくと、道は高幡不動駅にぶつかる。そのまっすぐ走って浅川を越えていけば、中央高速をくぐり日野橋の手前で国道20号線に出られる。短い市街地を抜けて車線が一つにまとまる頃には、両脇から山の緑が迫ってくる。

<つづく>