ヒビキ 5(完)

クラスメートを乗せるだけで、クラスメートの駆るバイクに乗るだけ。ただそれだけなのに、走っている間ずっと、ブラジャーのカップに包まれ、程良い形に整った胸が、薄いシャツを通して背中を押すのが心地よかった。でも、それだけ。いつもの場所で歩道に乗り上げると、先にヒビキが降り立ち、自販機に向かって走っていく。手渡されるのは缶コーヒー、卒業してからは選ばなくなったミルクと砂糖の入った250mlの細長い缶だった。

今では探そうにも見つけられない2スト250cc。そんなレプリカばかり行き交う国道を眺めながら、並んで腰を下ろして、粘るような甘さのコーヒーをすする。二人とも一人暮らし、時折思い出したように昨日作った夕食を披露しあう。ここでなくても話せることなのに、なぜかここで話すとつまらないことは本当に取るに足らなくなって、楽しいことは本当にうれしくなって叫びたくなるような、そんな二人だけの世界が歩道の上にたしかにあった。

淡いと言えば色気のない遠い日の思い出が、雑誌をめくる指先から白くぼやけていく。まるであの日、RZが吐いた白い煙のように。