見覚えのある、その背中に。 5

<10/15の続き>

西からの風に抗うように、ryoの右足がキックペダルを踏み下ろす。カチャカチャと数回、ペダルの戻る音だけが響いた後に、4ストローク150ccエンジンはいきなり目を覚ました。風に弾ける咆哮。そして、チョークノブを引いたまま、ゆっくりとスロットルを回しては閉じるーー濁る排気音が伸びのある連続した旋律になるまで、ていねいにそれを繰り返してゆく。

一度だけこちらを振り返ると、クラッチレバーを放してコースの入口、第1コーナーの立ち上がりへとCRFを走らせるryo。開けたその右隣にRMが並ぶのを待ってからひとつうなずくと、目の前に広がる大きなバンクに向かい、ゆっくり坂を下り始める。くぐもったエグゾーストノートを引きずり小さくなるその後ろ姿を、青いゴーグルレンズがしばらく見送っていた。

<つづく>