saitoさんがコースにユンボを持ち出し、運転席にYZの彼を乗せて、キャタピラの鈍い音とともにパドックへと引き上げていく。ori-chanの駆るCRF150RⅡも、ユンボと一緒になってコースから出ていってしまった。
残ったのはRMと、kyo-chanのCR85改だけ。ヘルメットの中、ひとつ大きく息を吐いて気持ちを入れ直すと、まだ全開にするには気の引ける、RMのスロットルを少しだけ大きく開いてみる。乾きながらもくぐもったサウンドが、湿った林の中に響いて、リアタイヤが褐色を蹴り上げた。その音に触発されたのか、CR85改が、いつものカン高いエキゾーストノートを木々の間から空へと吐き出し、再び走り始めた。CRと半周開いていた間も、すぐになくなり、最終コーナーの立ち上がりでついに、真後ろに着けられた。
スロットルが動かなくなるまで一気に開けてやりたい気持ちをこらえて、第1コーナーからの立ち上がり、斜面をゆるゆると上っていく。背中にCRの排気音を感じながら、そのまま第2コーナーへ。RMがぎこちなく回るインサイドのラインの左側、誰も走らず泥がゆるんだままのインベタに勢いよく突っ込み、前後のタイヤを泥に沈ませながらCRが翻る。そして、タイヤに褐色で水混じりの泥を絡ませたまま、それを気にする風でもなく一気にテーブルトップを跳び越えると、第3コーナーをアウトにはらむように立ち上がっていく。
呆気にとられてばかりもいられない。心許ないスロットルワークで後を追うようにして入ったフープス、その目の前で真横を向いたCRが、いきなり逆立ちした。#78のサイドゼッケンが目に映ったのは一瞬だけ。次の瞬間にはフロントタイヤがコブの狭間に落ちてリアタイヤが宙へと舞い上がり、kyo-chanの体はあっけなくシートから放り出されてコース横の土手に叩きつけられた。その後を、縱に回転する車体が襲いかかるように飛んでいく。「ヤッたぁ」と思うよりも早く、前後のブレーキに手足が動いて、倒れるCRの真横にRMが近づいていった。
RMが停まる前に起き上がり、右手を高く挙げるkyo-chan。てっきりうずくまったままと思っていたら、愛機が降ってこなかったのも幸いして、ゴーグルのノーズガードで頬を切っただけ。まったく頑丈にできているのか体の鍛え方も違うのか。とにかく無事だった。打ち身のほかに大した怪我もなく、コースへと戻っていく。むしろ、不自然な回り方をして、マシンがひどく傷んでしまった。リアフェンダーが割れて、大切にしていたサイレンサーもチャンバーとのつなぎ目から大きく外に曲がってしまい、新調したヘルメットのバイザーは傷つき、塗装も剥げてしまった。
<つづく>