ばくだん 6(完)

「また柏崎に来なくちゃいけないね。そのときはまたここに寄らせてもらおうね」

咲満ちた桜や艶やかな錦繍、出会いたいのはいつも見事な景色とは限らない。風光明媚だけが旅情をかき立てるわけでもない。たまたま隣り合わせた地元の人と日々の話をただ重ねて、互いの暮らしぶりを語り合う。それも旅情。旅と人の情けが織りなす、かけがえのない刹那。keiの言うとおり、またこうして肴を分け合い、グラスの縁を合わせられたなら、幸せだ。

何も遠くに行くことはない。ただ、自分を知らない、見知らぬ人と話が弾めば、そこが桃源郷になっても不思議じゃない。今宵のばくだんは、よくできた代物だった。会計をすませて外に出ると、海から宵の風が吹いていた。美味い魚でもあれば、それでいいと歩いてきた夜道を、ふと思い出す。漆黒の闇には、丸く月が浮かび、笑う二人を照らしていた。