ばくだん 5

<11/11の続き>

学生の自分、居酒屋チェーンでバイトしていた頃、「スタミナ納豆」というメニューがあった。鮪のブツと山芋の千切り、そしてかいわれ大根を散らしただけの粗末な一品で、きまって売り上げの良くない日に出される「まかない」として、よく覚えている。それとは違って、日本海に面した港町らしく、鮨ネタを包丁でていねいにほどいて、それをどんぶりに放り込んである。二人でその話をする前に、「これがばくだんですよ、おひとついかがです?」と、隣から声がした。きょとんとして振りかえるkeiに向かって、彼は続けた。

「こうして食べるんですよ。で、お尻の方を折り曲げてっと。これは大将に教えてもらったんですけどね。こうすれば中からこぼれてこないって」

慣れた手つきで「カヤク」を焼き海苔で包み込むと、出来立ての「ばくだん」がkeiの目の前にやってきた。「ありがとうございます」とお辞儀をしてすぐ、keiは大きな口を開いて、そのばくだんにかぶりついた。そして、やりとりを見ていた白髪頭の男性からkeiはもう一杯、ゆず酒をごちそうになった。

家族を連れて、茨城の牛久大仏を見に行ったことがあるという彼が、柏崎には温泉も見所も、何にもないと赤ら顔で笑い出す。でも、ここで、こうして呑めるのがうれしいのだとも言う。美味い魚に旨い酒があって、こうして人の情けにもふれあえて、笑って過ごせる。こうした店があるのだから、何もないわけじゃない。赤ら顔は、そう言いたげだった。

<つづく>