横顔

頭を思い切り左にねじるようにして、窓の外を見る。高架の下では、越谷の街並みが、すっと静かにしている。背の高い落葉樹にまだ緑はなくて、茶色い幹と枝だけが、細長い三角の形をして立っていた。その向こうに、絵の具の減りが片寄った絵しか描けなさそうな、抑揚のない空が、じっと動かないでいる。七人掛けの端に座ったのが良くなかったのか、右半分、とにかく太ももと二の腕が冷たくなって敵わない。眠気が差していたのに、まぶたに力を入れないと目をつぶっていられないほどだ。

北千住に着いても、映る街と空は、貧弱な色をしていた。スカイツリーも、てっぺんを霧の中に隠している。今日はこのまま東京を通り過ぎて、神奈川まで出かけなくてはいけない。改札を出てすぐのところにある、明るい緑色した文字のコンビニで、ずっとずっと食べたかった“あんパン”を買い、急いでカバンにしまい込む。それでも一つ早い急行電車に乗ってきたから、8時28分発の常磐線、快速上野行きに十分間に合いそうだ。

エスカレーターを降りようとしたとき、ちょうどホームに電車が入ってきた。右側を急ぎ足で歩いて、いつもの車両のいつもの位置に乗り込む。スカイツリーが見える側だ。金色をした細い鎖の先にシャーベットカラーのガラス玉がついたピアス。多面体にカットされた飾り玉と同じパステルグリーンのアイシャドウが丁寧に引かれている。隣に並ぶのは、きれいな化粧をする黒い服の大人の女性。惹かれて横顔をよく見ていたら・・・ふっくらとしたほほ骨の下を、寝癖のような細い線が二本、浅く引かれたままだった。