激走・三月までの~ひと月ぶりの練習編~5(完)

<3/21の続き>

サンダル履きでBongoを降りると、まばらな排気音が、曇天に跳ね返っていた。冷たい風は相変わらずで、受付のほうから強く吹いている。その風に乗り、うねるように音をゆらして、せっかくの白いデカールを泥で汚してざりままが戻ってきた。スネークの入り口、バックストレートから右に折り返した短い直線には、大きな水たまりができている。そこを避けようとして、失敗したらしい。そういうのが下手なワタシには、どうにも耳障りが悪い話だ。その小さな肩越し、ryoの赤とkyoheiくんの緑が連なって坂を下りてくる。壁にしか見えなかったスネークヒルも、ずいぶんなだらかになったものだ。

午後2時。となりのkyoheiくんが、広げた手のひらを落として、強く小刻みに振っている。「ブレーキレバーを引く握力が残っていない」と渋い顔に、軽く笑みを返す。朝からフリー走行で、息継ぎほどの短い休みを取るだけ。ずっと走りっぱなしだった気がする。ワタシは、腕よりも脚、膝から上の太ももが震えはじめ・・・踏ん張りがきかなくて、ステップに立ち上がったカラダをうまく支えていられなくなっていた。でも、それは、満足のいく疲労感。「走りきった」という感覚が全身を包んでいる。ryoも同じようで、その上気した笑顔に、大粒の雨が落ちてきた――。

風に舞う雨を避けるように、3時半を待たずに店じまい。ハイエースとBongoは、バラバラにパドックを後にする。冷え切ったカラダを抱えて、湯ったり館へと急ぐ二人。「初めて408を走ったときのレイアウト、覚えてる?」いよいよ濃くなった灰色の空の下、露天風呂に温められ、ゆるんだ声で昔話に花が咲く。「もちろん!」と瞳を閉じて、走り始めた頃のMX408を思い出す・・・変わったのはスネークヒルの高さとryoの走り。もう3月だ・・・。