それでも開けて走る 4

あえぐマシンの音が消えて、10分の間、コースの上が静かになる。ホイールごと泥にまみれたYZ85を、引きずるようにして戻る背中は、両肩が上下に大きく揺れていた。入れ違いにCRF150R-Ⅱから身を剥がして、颯爽とパドックを抜けていく彼女が一人。走りはしっかり男前だけど、時々可愛い仕草も見せるMCの常連に行き合うと、「あれ、まだきれいですね~」と、少しも泥に汚れていないウェアを見咎められてしまう。思わず照れたように下を向いてから、「あっ次、走ります!よろしくお願いします」、そう言いながらゆっくりアタマを持ち上げて、その顔をのぞきこむと・・・愛くるしい丸い頬には、うっすらと笑みが差していた。何気ないやりとりの中に、しばらく味わっていなかった緊張感が混じり、何とも言えない気持ちになる。これが雰囲気だ。苦労するのはわかっているはずなのに・・・今日、85SXを積んでこられなかったことに、誰に向けるわけにもいかない悔しさが、今さらこみ上げてきた。

<つづく>