色褪せぬ時

ありふれた白いガードレールが時折きつくアールを描いては、複雑な海岸線をたどっていく。そのうねるような曲線に合わせて右に左にと切り返しているうちに、海は視界の遙か下に、青く沈んでいった。突き破ってしまえば助からないだろう高さにまでアスファルトは駆け上がり、彼方に朝が眩しく浮かび上がる。

半島の西側を縫うワインディング、アスファルトに朝日はまだ届かないでいる。見下ろす凪いだ駿河湾にだけ光は落ちて、遠く沼津の街並みを照らしている。左から右に白い煌めきが横切るのは、南アルプスの稜線だろうか。そして、右カーブとともに開けた視界に、霊峰の伸びやかな肢体が艶やかに映り込む。

叶わぬ恋を誓った岬、黄金色に染まった大海。そして、盛りを終えた桜の木立。桜色のルーストを上げた走ったあの日からもう何十年も過ぎてしまった。希望と不安を勢いと装いとで覆い隠し、「路面をこすれ!」とばかりに大きく膝を突き出しては、シートにほとんど尻を着けないままの昔が、バックミラーのマシンに重なる。

アスファルトの真ん中に白い破線が出てきたところで、後ろのマシンが右から抜きに出てきた。4ストロークだった。車体を少しだけ左に寄せて前を譲ると、左手を大きく空に上げて走り去っていった。かすかに荒れた路面を今日は四輪で走る。色褪せない時間。ハンドルを握った両手に伝わる感触は、たしかにあの頃のままだった。