「内装もご確認いただけますか」
そう促されて、ビニールカバーがかぶったままの運転席に半身を滑り込ませた。途端に鼻孔に広がる懐かしい匂い、一気に記憶がさかのぼっていく。
フロントガラスに映るのは、見慣れた国道の景色ではなく、工場の組立ライン。右から流れてくるのはクランクシャフトとそれが収まるクランクケース。そのずっと先で、車体課から来るボディに載せられる。
五感に沁みついた記憶は、ずいぶんと長持ちするようだ。あれから三十有余年・・・・・・この匂いが飛ぶまでは、社会人に成り立ての、あの蒼い思い出とともに走る日々が待っている。
「問題ございませんか」の一声で、我に返った。