雨ニモマケズ~最終話

昼をはさんで、午後が始まる。20分以上走っても記憶が飛ぶことはなく、肘も膝も、肩も腰も、思いどおりに動かせるようになってきた。右肩も痛むどころか、かなり動きが良くなっている。跳び上がってもハンドルを引く余裕もある。でも・・・フルサイズに混じっての孤独な走りは、腕の立つ連中ばかりとあって、どうも落ち着かない。ただでさえ近いところに視線が落ちるのに、後ろから迫られると、けたたましい排気音に気が散らされてしまう。コース上に“うるさい”連中が居なくなる頃合いを見計らって、静かに走り続ける。今の走りが速いのか遅いのか・・・ミニモト一台では、知る由もない。

途中、RM125を借りてコースを数周回ってみる。2スト125ccの力強さと長い車体、そして2スト85マシンにはない慣性のある重量に違和感を覚えたものの、同じメーカーの2ストロークマシンだけあって、力の出方が、どことなく似ていた。ただ、頑張ってみても、とてもじゃないけど全開は無理な話。とりあえず直線だけでも楽しませてもらうことにした。ギャップも気にならず、不完全な跳び出しでも包容力のある着地。これであと少しだけ車体が小振りだったら・・・今頃は愛機になっていたかもしれない。やっぱりあと少し“立端”がほしかった。

「全力”か?」と訊かれたら自信はないけど、思いっきり走っているつもり。走っている感覚も戻りつつある。しかし、正気に返っても、うれしいことばかりではなかった。負の方程式まで、はっきりとわかるようになって、リズムジャンプが思い切れない。「普通に走っていれば、絶対届くって」「跳んじゃった方がラクっすよ」・・・最終コーナーの手前、一周目で底に叩きつけられた2連が、どうしても“離陸”できないでいる。確かに続くテーブルトップは、角が削られていて傾斜も緩やか、よほどじゃなければ、突き刺さることは無さそうに見える。そうは言っても・・・加速不良、速度不足で飛距離が延びず、フロントタイヤが斜面に激突、そして前転・・・と。そんな“解”が、左コーナーを立ち上がる度に頭の中を巡っては、最後まで挑戦させてもらえなかった。

先週と同じく“ジャンプ”には課題を残したけど、30分をそれなりの調子で走り続けても大丈夫なくらいに、なまくらは解消されたようだ。午後3時30分。走りきった満足と一緒に、今日の走行を切り上げる。この時間に体が反応しているとすれば、体内時計がMX408仕様になっていると思うばかり。相変わらず走行直後の体温は上がりっぱなし、しばらくは着替えも片付けもしないで、だらだらとウチワで扇いでいるだけ。不思議と腕が上がらなかったのは・・・いいことなんだろう。

コース脇に自生するタケノコをみやげにいただいて、にこやかにコースを後にする。Bongoの中では、来た時と同じように、LADY GAGAが叫んでいた。

  I'm on the edge

  The edge The edge The edge The edge The edge The edge

  I'm on the edge of glory

  And I'm hanging on a moment with you

  I'm on the edge with you

『The Edge of Glory』・・・ちょっと違うのは、曲に合わせてThe edge The edge The edge The edge The edge The edge♪と口ずさんでいること。雨に負けなかったから、思いがけず楽しい一日が手に入った。ありがとう親父さん!ありがとう半谷モトクロスパーク!