冬の気配 終

ちゃんと恐怖もするし、努力もするんだ・・・。

飄々とした横顔は、ほとんど本音を見せないから、素直に驚いた。shinくんの台詞を思い出しながら、全開にしたエンジンを左の人差し指が解き放つ・・・14時ちょうど。最後の10分を走る“大人”はワタシだけだ。mori-yanは、洗車機でCRF150RⅡの土埃を払っていたし、abiko父も白いつなぎ姿に着替えていたし・・・ただ、コースの上を跋扈する子供たちに、日和ってはいられない。右手を握り直して、褐色に染まった奥の直線を駆け抜けていく。

少しは乾いていると思った日向は、固く黒光りしていて・・・気づけば、MX408もすっかり冬の装いだ。そんなすべる路面にも、最後になって、ようやく体が反応している。陽の当たらない奥の左旋回とスネークだけが、いつまでも心地よくリヤタイヤを受け止めてくれていた。

インを狙っては前に出ようとするYZ85。その女の子だけには何とか背中を見せたまま、レース時間の10分を緩まずに走りきる。mori-yanに離され続けて、課題は残したままになったけど・・・最後の一本は、攻める気持ちを抱き続けて終われた気がする。タイヤのブロックの間を“きな粉”色にしたRMが、Bongoの横でナノハナ色に佇む。エアクリーナーさえ汚れていなければ、このままイバMOTOに連れて来てしまってもいいくらい。派手な原色のプラスチック製タンクに、陽射しのカケラがそっと置かれていた。

RMを積み込み、荷室から降りてきたところで、旗振りを終えてパドックに戻ってきたmachi-sanが、「冬の408らしくなってきたね」と微笑みかける。「子供に交じって頑張っていたパパには・・・」とvanetteの運転席に上半身を隠すと、B5サイズの箱を取り出して、「はい、これ」とこちらに手渡した。どこかで見たことのある“チョコレート”は、中国出張のお土産らしい。貝殻を模したチョコレートよりも、「頑張っていた」の一言が、とても甘美に思えた。お世辞でも、今日は明るく響く。これで・・・来週のイバMOTOも、ちょっとは弾けられそうだ。