“7200秒”の中華三昧~後編1

クルマ一台分ほどの幅しかない路地に、寿司屋が三軒、散らばっている。入り口にも二軒あったから、ここから見えるだけでも五軒・・・さすがに築地だ。その築地、格子戸が続く路地裏にあって、透明なガラス戸に、飾りのない黒褐色のイスと四角い食卓が映る。床と壁が白くて、凝ったところが一つもない。中国料理本店“中国台風(チャイタイ)”。いわゆる円卓もなければ、一品料理にフカヒレがあることもなく・・・日暮里にありそうな、普通の中華料理店が、目の前にある。中からは、灼けた中華鍋に鉄製のおたまが擦れて、カチャカチャと元気な音が聞こえてくる。和の店が揃う街で、ココを選んだ幹事は・・・まだ姿が見えなかった。

待ち合わせの時間は18:30。あと15分ほどだ。幹事よりも先に落ち着いてしまうのは、どうにも気が引けて、暗い路地裏を行ったり来たり・・・。ちょうど向かいに「魁」と書かれた看板だけが下がる、“一見さんお断り”の店があって、その並びに少し庶民的な香りがする「すしざんまい」。“奥の院”と号する別邸風の造りは、入口にぼんやりと灯りが漂い、それだけでも贅沢な気分にさせてくれる。大きなビニールに描かれた“季節限定”メニュー・・・その一番上は、大トロだ。シャリの上に、その倍はあるネタがのせられて、まぐろの切り身以外に何も見えない。口の中に唾液が溜まり、お腹がググーッと音を立てた。

<後編2に続く>