“7200秒”の中華三昧~後編2

予定を10分ほど過ぎてようやく、幹事を先頭にして、武蔵小杉からの三人組がやってきた。前回と同じ顔ぶれ、ちょうど夏の盛りに、新宿で騒いだ連中だ。見覚えのある白髪交じりの頭が、ガラス戸から中へと入っていく。すぐにそれとわかる抑揚で、中国人の亭主が「いらしゃいませ!」と迎えてくれた。座敷を所望した五人に、亭主が店の奥へと案内する。バラバラと履物を脱いで、どこの家にもあるような戸口をくぐると、細長い部屋だった。詰めれば40人は入るだろうか、中で座卓が、列を二つ作っている。ここにも中華御用達の“円卓”はなく、四角い食卓がいたって普通に並べられてあった。

新橋駅で都営浅草線に乗り換えると聞いていたのに、地下鉄は使わず、30分ほど歩いてきたらしい。“銀ブラ”なんて古い台詞を躊躇せず口にできる世代の“幹事”には、もう10年以上お世話になっている。直接仕事を頼まれるようになってからは一年足らずだけど、年代的にも気を遣わないところが、夜のひとときを笑顔にしてくれる。明るい茶色に沿うように、座布団が不規則に置かれて、文字だけのメニューはクリアケースに入れられ、天板の上に放られていた。カーテン越しの窓ガラスは少し開いていて、部屋の隅にある換気扇が騒がしく回っている。なるほど、腰を下ろして手を着けた食卓は、手のひらが張り付くように油でベタ付いていた。

“本格中華40種食べ飲み放題オーダーバイキング+飲み放題120分”・・・幹事の“推し”は、この二つの“放題”。メールには「日頃、貧食に喘いでいる皆様には、大いに太っ腹になっていただきたいと思います」と、自慢げに記されていた。ただ、ひらがな交じりのメニューには、“本格中華”と思えるものはなく、かなり庶民的な印象だ。“生ビールは一人二杯まで”とか“最初は一人二皿まで”とか“おかわりは皿やグラスが空になってから”とか、メニューにはうるさく書いてあるけど・・・昭和の人間らしく、片っ端から好き放題に注文を始める。見かねた店の亭主が「また注文聞きに来ますから安心して」と、笑いながら幹事をなだめていた。

<後編3に続く>