日暮里の繊維街。駅前のロータリーからその入口まで、小さな桜並木が延びている。陽が差し込まないビルの10階から通りに出ていくと、まぶしい明るさと同じぐらいに風が温かだった。ようやく春の陽射しに気温が追いついてきたようだ・・・もしかしたら今日は、追い越してしまったかもしれない。二車線の車道をはさんだ反対側の歩道には、そんな光りの中、ビルの二階ほどの高さに枝を張った桜が五本。たっぷりの陽射しを浴びて、薄い桃色の花びらをやわらかく揺らしていた。昼には20℃を超えて「花見を楽しむにも、いい気温になる」と言った新人アナウンサーの予報は、嘘じゃなかった。温かな風と一緒にそよそよと横断歩道を渡り、短い並木道をのんびり見上げて歩く。都バスの屋根がかすめるように走り抜けても、枝の先は、ほんのりそよぐだけ。白く粉を撒かれたような空から、ひとひら、またひとひらと、花びらがはらはらと落ちてくる。風に舞うことなく、ゆっくり、ゆっくり下へと落ちる桜。震えるようにしてまっすぐ落ちる花びらを、立ち止まり、目で追いかける。右肩に乗った太陽が、ちょっと面倒だった。