夕暮れのミタ

雨の上がった街に風が泳ぐ。改札から山側に出ていくと、ビルから風が落ちてくる。歩道橋で国道15号線をまたぎ、湿った階段をひとつひとつ、うつむき加減で降りていく。何となく左側を通行する人の波。右下から白のミニがゆっくり上がってくる。ふくらはぎが柔らかく盛り上がり、形の良い曲線は肌色のストッキングに包まれていた。陽が沈み、残り日と街の灯りが、白を強く浮かび上がらせている。すれ違いざま、肩の線を越した薄い茶色の髪から、甘く切ない香りが漂う。小さな窓口が一つだけの宝くじ売場の角を曲がり、駅に向かう人の流れに抗い、体をぶつけないようにしながら、右に左に肩を動かす。中層の雑居ビルに囲まれた通りは、いつもながらに歩行者天国そのもの。ここを過ぎるクルマを、今まで見たことがない。Gメン’75ができそうな車道に降りて、駅からどんどん離れていく。夕食には少し早いマクドナルドの笑い声を左の耳で聞いて、まだ歩いていく。慶応大学に続く大通りに出て、大学とは反対方向。海側に少し行ったビルが、目的地だ。駅チカの高層ビルに“席替え”させられてからは初めて・・・ひさしぶりの歩道の上、海からの向かい風が、スーツの上着をはだけるように強く吹いていった。