Merry Christmas! 5

<2012/12/28の続き>

このところ走り出すのが遅いiguchi師匠には・・・理由があった。周りで不幸な事故が続いて、少し気持ちが鬱いでいたらしい。モトクロスを続けていれば、そういう場面に出会すこともある。そう覚悟はしていても、“身近に”となると妙に生々しくて・・・とても走る気分にはなれなかったのだろう。「みんなが居なかったら・・・降りていたかも」。その“みんな”のうちの一人だと思うと、それはうれしくもあり、何だか誇らしかった。そういう元気と、tohdohさんから「さあ、行くよ」の声をかけてもらって、やっとbongoの荷室にもぐり込む。コースに散った子どもたちが奏でる高音が、バックドア越しの耳にも届いてきた。

下半身だけを決めて、上はパーカーにスキージャケットを羽織ったまま、外へ出る。スネークヒルに向かって視線を上げると、ひと足早くtohdohさんがコースに消えていた。歩みの先、ゼッケン3をまとう“下ろし立て”のKX250Fが、スネークヒルをゆっくりと折り返している。もう一度、その縁からコースを確認して、お気に入りのone spring editionのジャージに腕を通す。薄いポリエステルの生地を風が突き抜けていって、一気に熱が奪われる。暖機を始めたKX85Ⅱのサイレンサーが、右手の動きに合わせて、真っ白な煙を吐き出す・・・カン高い、その音の後ろで、それでも師匠はクルマから出てこなかった。

<つづく>