春遠からじ 7

ryoの首に掛かった“KAWASAKI”のロゴが入ったタオルは、カワサキ運動会の記念品・・・「やっぱり緑が、“オレ”のマシンなんだよね」、めざといざりままが、ryoの肩越しからやわらかに笑いかける。本音を突かれて照れているのか、ただ陽射しが眩しいだけなのか・・・眼を細めて、ざりままに微笑みをかえす。それでも今日は、もうKX85Ⅱにはまたがらないらしい。慣れないCRFを手なずけようと、VFX-Wを片手に立ち上がるryoの横に、CRF150RⅡを積んだ軽トラックが近寄ってきた。okano師匠だ!年が明けて、今日が初の顔合わせ。黒ぶちの眼鏡に無精ひげをたくわえ、少し頬がこけて精悍な感じがする。そのまなざしに送られて、ryoがうれしそうにコースへと加速していった。

冬に強い師匠は、“魔法の券”を手に、昨日も走ったらしい。この陽気に誘われての二日目、陽も高く上がって、着替えるのに何の躊躇もいらない。ryoの後を追うようにして火を入れたKXの後ろで、ほとんど支度が終わらせた師匠が、手を上げていた。ヘルメット越し、耳障りな高音の向こうから「すぐ行くよ」と声が聞こえた気がした。

<つづく>