春遠からじ 8

コース脇の日だまりは、妙に明るくて、菜の花やタンポポが似合いそうなくらい。その光を浴びて、カラダの内側にも熱がこもる。冬になって、ずいぶんひさしぶりに味わうこの感覚・・・このまま一足飛びに、桜の花でも咲いてしまえばいいのに・・・そんな温かな風に気を良くして、最終の右コーナーを立ち上がる。軽く吹けきるエンジン、KXの機嫌も悪くない。そこから短い直線を越えて今度は左へ。小さく左に曲がるワタシをちらりと確認して、赤いフロントフェンダーが動き始めた。第3コーナーを抜けて、テーブルトップを跳び上がって・・・前に出てきたokano師匠の背中に、視線が集中する。

ryoが舌を巻いたとおり、“フープス”を軽くいなしていくokano師匠。いつもなら、ここで刺せるはずが、今日はなかなか背中が大きくならない。CRFも調子が良いようで、パンパンと息つきすることなく、連続して排気音が伸びていく。暮れに走ったときは、極端に速度が落ちた最後の“2つ”も、さりげなく切り抜けて、高速の左コーナーへと踊り出る。ただ、ここからバックストレートの終わりまではワタシの“出番”・・・テカテカでもカチカチでもない直線にKXのリヤタイヤが絡みつき、一気にCRFのリヤフェンダーが近づいた。

めずらしく、だらーっとアウトの縁にはらんでいった師匠・・・その“お株”を奪って、ブレーキレバーを握ったまま、シートとタンクの上に股関節を押しつけるようにして、くるりと旋回。うまくいくと、これ以上ない素直さで、KXが向きを変えてくれる・・・最近見つけた“秘密”の方法で、CRF150RⅡよりも先に2連ジャンプのひとつ目を跳び越える。ふたつ目はタイヤが離れないように舐めて、静かに水たまりの際をたどり・・・陽射しが揺れる短い助走を走りきって、ロングテーブルトップを跳び出す・・・。

<つづく>