ちぐはぐさがいい

20℃を越える初夏の陽気に、あっという間になれてしまったカラダが、平年並みに戻った気温になじめないでいる。しまいかけていたSUNNYSPORTSのパーカーを着て出かけるのも、昨日の寒さだけかと思っていたら・・・今朝もハンガーから引っ剥がして、家を出る。見上げれば、ぼんやりとした空の灰色を割って、光がにじみだしてきた。ひさしぶりに見る太陽の輪郭が、大地に残った湿気をゆっくりと吸い出していく。うっすらと漂う朝霧が、冷たく風に流される。

駐車場でクルマを降りて、キルティングのインナーを付けたまま、真っ黒なパーカーに袖を通す。前を歩く背の高い男の子は、さらりとしたスーツだけ。黒いジャケットに、柔らかな陽射しが当たって溶けている。ワタシの右肩にも同じ陽がとどまっては、ぼわっと温もりがひろがった。その肩口と首筋の間を、風がひんやりと抜けていく。光と風が季節をジグザグに縫って・・・そんなちぐはぐさが、いかにも春らしい。

コンコースを通り抜け、小走りになってホームへ続く階段を下りていく。田園都市線の古めかしい車両の中は、座る人影もまばらだ。床に落とした視線を泳がせると、肌色と黒色の脚が、交互に並んでいるのが瞳に映る。そこからゆっくりと顔を上げると、首の回りにマフラーを巻き付けた女性がスマホをいじっていた。茶色のダッフルコートは、ワタシと同じ季節感、そのワタシの横には、七分丈の黒いTシャツにストールを羽織った女性が、手元の文庫本を目で追っていた。