鈴鹿

朝早くから、真昼を感じさせる光が射している。行き交うクルマにも、工業団地の白く巨大な建物にも、歩道の上を並んで走るセーラー服にも、丸々とした柴犬のリードを引くおじいさんの背中にも、ひとしく高いところから、陽光が降っている。すべてが白くきらめいて、フロントガラスを見つめる瞳に照り返しがまぶしい。交差点の信号が青になっていることを、その瞳を細めて確認して、ゆるめていた右足がアクセルペダルを踏み込みなおす。横断歩道の端、真上に見える歩行者用の信号が青色の点滅を始める前に、交差点をまっすぐ通り過ぎた。そのまま国道のバイパスまで進んで、今日初めての赤信号を見つけて左足がゆっくりと床まで、クラッチペダルを踏みつける。反対側の車線に、いつもはバイパスの手前ですれ違う路線バスが、踊るようにして車体を停めた。大きな一枚ガラスのフロントウインドウが、黄色い壁のように映っている・・・。

「誰か一緒に行く人いるの?」隣からryoが訊いてきた。

今年の7月は「鈴鹿に行こう!」と話したのは、二日前の日曜日。竜ヶ崎にも行けずに、柏の葉ららぽーとからの帰り道、軽トラックの窓を開けて流しているときだった。ケビン・シュワンツが出走・・・いつからかライダー3人体制になっていた“8耐”、その第3ライダーとして“もどって”くるという。kissを観られない今、アメリカからのうれしい話だった。

生まれつき「手足が短い」とされる“うお座”のワタシには、長い腕と脚を器用に折りたたみ、膝を突き出しながら、不格好に背筋を伸ばす独特のライディングフォームは、真似ようとしても真似できるものじゃない。ついにその走りを“生”で見ることはなかったから・・・コレを見逃すと、もう後はないかもしれない。

「いや、今のところ二人だけだ」よく照ったアスファルトから瞳をそらして、そっと言葉を返す。

“フライング・テキサン”。その“潔い”走りが・・・今から待ち遠しい。