7月最後の日曜日は 3

伊勢鉄道鈴鹿サーキット稲生駅。

四日市でJR線から乗り換えた一両編成のディーゼル車が停車した駅は、国際レーシングコースの最寄り駅にしては、あまりにも簡単だ。駅舎のないコンクリートのプラットホームは、淡黄色の石膏ボードに囲まれているだけで、何とも頼りない。目的を同じくする人間がすべてホームに降り立つと、列車はほとんど空っぽになった。階段を下りて、明らかに“今だけ”といった風情の職員に切符を渡し、一筋の列をつくって、蝉しぐれの脇を歩き始める。通りを流れるクルマの数と、それに混ざるバイクの割合が多いことをのぞけば、どこまでものどかな夏の朝だ。

何もない丘陵地帯を上って下る街道。上りつめて見えてきたのは、広い駐車場と「PACHINKO」と書かれ、原色に塗りたくられた三角屋根の建物。郊外にはよく見かける風景だ。そのずっと先、下り坂が再び上り始める辺りに、斜めにせり上がったスタジアムが灰色に浮かんでいる。そばに比べるものがないけれど・・・下の方でうごめくクルマの影を見れば、はるかに巨大な建造物だとわかる。組まれた鉄製パイプの造形がはっきりとしてくると、すぐ脇の道路を何台ものロードバイクが通り過ぎ、砂利が敷かれただけの簡素な駐車場にはセダンや1.5ボックスのクルマが並べられて・・・見慣れたモトクロスコースのエントランスとは、まったく違う空気が漂い始める。耳をすませば、かすかに走行音が聞こえてくる。直線を伸びやかに加速していく連続音は、次から次へ流れては消え、消えては流れを繰り返している。その音の輪郭まで「あと少し・・・」のところで、鈴鹿サーキットの南ゲートが現れた。チケットをかざして、そこからさらに進んでいくと・・・だだっ広いメインゲートが手を広げるようにして待っていた。遊園地の入り口のようなそこからは、スタジアムの向こうに轟くウォームアップ走行の音があふれ出ている。音、人、色。そのどれもが、夏の光を楽しんでいるようだった。

ホンダだけじゃない・・・他の3メーカーはもちろん、海外メーカーやタイヤメーカーのテントが、ひしめくように建ち並ぶ。その横でグランドスタンドが、巨大な壁のように空を隠している。見るものすべてに圧倒されたのか、口を開いてもひと言も発しないryo。すぐにでもコースを見せてやりたかったけど、あいにく“自由席”のチケットでは、グランドスタンドへは入れない。それでも「ウォームアップの音が消えないうちに・・・」と、ゆるやかな坂をシケインのほうへと急ぐ。真っ平らに見えるロードコースにも、アップダウンがある・・・坂の途中にあったトイレに駆け込み、汗で貼り付いたデニムをショートパンツに履き替えた。すっかり夏のリゾート気分で、そのまま最終コーナーを過ぎ、シケインに向かって歩き始める。その間にも、狂ったように音を響かせて、シケインを立ち上がり、最終コーナーからホームストレートに、マシンが逆さまに駆け下りていく。

<つづく>