このままじゃ・・・ヤラれる! 3

キャブレータ-はもちろん、サイレンサーにチェーン、前後のスプロケット。さらに、プラグまで“標準”のレーシングプラグに変えて、「初心に帰った」ような愛機KX85Ⅱ。これで走ってみて、あとは“1/26”までに詰めていけば・・・そんな軽い気持ちでキックペダルを踏み降ろす。ほとんど抵抗のないまま、アルミ合金のペダルが下りて、足の裏にくっついたようにまた上ってくる。何度かそれを繰り返して、つま先で支えている左足が寒さでつりそうになった頃、ようやくエンジンが目覚めた。純正のサイレンサーからは、やわらかな音とともに、真っ白な煙が吐き出される。チョークノブを引っぱったまま、RM85Lに似たくぐもった排気音が辺りに響いた。チョークノブを戻してもエンジンが止まらなくなるまで、つきっきりで右手を動かしていたら・・・ryoも、iguchi師匠も、パドックからいなくなっていた。

わずか3周・・・冬休みの間に楽しんだボウリングのせいなのか、走り出してすぐ、右手を握りしめるチカラが消えてなくなった。フープスを何とかやり過ごして、よろめくワタシの左を、ゼッケンのない青のYZ85がすり抜けていった。nagashimaパパだ。同じような時間が空いていたはずなのに、新車を慣らして走っているはずなのに・・・すべって暴れるKXを尻目に、バックストレートをまっすぐ加速、ワタシを置き去りにしていった。薄日に照らされて、白いリヤフェンダーがつるんと光る。おろしたてらしい、艶のある光だ。その光る後ろ姿に向かい、スロットルを握り直す。チカラの抜けた、でたらめな動きをする右腕が、サンドコーナーのインに合わせて、無造作にハンドルをねじると――そのままワダチにフロントタイヤを取られて、万事休す。初日の最初のクールで、まさか土の上に寝そべり、空を仰ぐことになろうとは・・・。

<つづく>