MC戦記(第1戦) 10(完)

長い間合いに惑わされ、気がゆるんでいたか、それとも気負い過ぎたのか。どちらにしても無意識のうちに腕に力が入ったらしい――スターティングバーが倒れる一瞬、KXが右に少しだけ傾いた。足台の意味もなく、倒れた灰色のバーに弾かれ、フロントタイヤが右に切れこみ、小屋の右側から現れたマシンにぶつかりそうになる。ここで右手は全閉・・・せっかくtohdohさんに平らに均してもらったのに・・・悪い予感が当たってしまった。

冷静さと呼吸するのを忘れた視線の先に、マシンの塊が拡がる。その中に1台、勢い真っ直ぐ走り過ぎていくマシンが、あわてたように第1コーナーへとフロントタイヤを切り返す。サイドカバーのゼッケンは29、iguchi師匠のCRF150RⅡだ。その赤い車体のすぐ前にもう1台、同じCRFがゆるい弧を描きながら近づいてラインが交錯、フロントブレーキを握ってしまったのは・・・行く手を阻まれたiguchi師匠だった。接近したマシンには、JTのウェアが翻る・・・。

埃を立てることもなく、路面に崩れた師匠のCRF。後ろをふり返るようにカラダをねじって、その倒れたマシンに視線を送っていたのは――見間違えでも何でもなく――ryoだった。チームメイトでスタート数秒後に“潰し合い”。その二人を離れたところから見つめるワタシとKX。MCの初レースは、三人三様の「何てこった!」で始まった・・・。