激走・三月までの~最後!?の負傷編~3(完)

1時間半たっぷり休んで、午後の1本目。あれほど痛くてたまらなかった左膝も、大事に動かさずにいたせいか、まっすぐにしているだけならいつもと変わらない。そのままシートにまたがり、おそるおそる左脚にカラダを預けてキックペダルを探り出す。軽めの反動を左脚が吸収して、2スト85ccのエンジンがカラカラと音を当てて回りはじめた。

時折、左膝に視線をやりながら、2周ほど様子をうかがう。関節の上げた鈍い音は気のせいだったのかと思わせるくらい、下半身の踏ん張りは変わらない。ならば、と3周目。ホームストレートからジャンプをつないでいってフープス。1つ目のコブを跳び上がると、3つ目のコブの手前にリヤタイヤが落ちた。フレームが衝撃を受けると同時にカラダがギャップに向かって押しつけられる――両膝がその衝撃を受け止めようと、くの字に曲がった瞬間だ。もう一度グキッと鈍い音がして、左脚から強烈なしびれが走った。

痛みをこらえ、何とかフープスの終わりまでKXを連れていって、動かしようのない左脚ひとつでマシンとカラダを支える。その横を、心配そうにゆっくり抜けていくryoに左手をあげて見せたものの・・・CRF150RⅡの破裂音の去り際、こらえきれずに天を仰いだ。痛くてアタマがおかしくなりそうだ。

たっぷり満タンにしたガソリンは、タンクの口からほんの少し減っただけ。いつもなら空にして帰るはずなのに、ふがいない。KXのハンドルに両手を添えて、Bongoの荷室に渡されたアルミのはしごへ静かに近づいていく。左脚を引きずる姿が、何とも無様。CRF150RⅡを、ほとんど止まっているような動きで積み込み、外に散らばっていた工具箱やらセンタースタンドやらをかき集めて、片っ端から載せていく。ポリタンクの中、使われることのなかった混合ガソリンがチャプチャプと音を立てて揺れていた。

“本番”まで、あと2週間。今とは逆回りのコースをmuraと並んで走っていた頃、ホームストレートエンドにできたブレーキングギャップにフロントタイヤをはじかれて、傾きかけたRM85Lから地面へ、右肩からぶつかるようにして落ちた日の空を、ふと思い出していた。あの時の痛みは、右肩の奥にまだ残っている・・・この痛みもまたMX408の記憶とともに、左膝に残されたままになるのかもしれない。