初夏の軽井沢

KX85-Ⅱの細いエンジン音が、杉木立に囲まれたパドックに響きわたる。なだらかに上った先に並んだトランポ、その一番右端に駐まったBongoへとカン高い排気音が走っていく。そのBongoの脇で、ryoがきつそうにヘルメットを脱いでいる・・・先に帰ったCRF150RⅡには、初夏の陽射しが留まっていた。耳ざわりな“遠吠え”に、CR85を駆るSEチャンプが隣で苦笑い。「あと1周がなかったら」・・・いやいや「あともう1周あったら」・・・やり返せたかもしれない・・・。最後に右手をひとつ絞ってから、キルスイッチに親指を伸ばす。レースの刺激が消えて力の入らなくなった左脚で、砂利だらけの斜面を捉える。強がりと悔しさのからみ合う視線が、風のない碧く光る空に、しずかに溶けていった。

<つづく>