初夏の軽井沢 8

<6/1の続き>

なだらかに続く直線の向こうに、さっき駆けてきたばかり、“一度きり”のホームストレートが土埃に煙っていた。2周目からはその手前、フィニッシュのテーブルトップジャンプが配された直線が、第1コーナーの立ち上がりにつながっている。スタートの興奮を残す景色が、視界の中で大きく上下していると、平たい左回りの第3コーナーが近づいてきた。インとアウトが遠く離れて、カーブの頂点が縦に長く延びて――“インベタ”必須、アウトを回っていたら確実に刺される、典型的なコーナーだ。前を走る第一集団に引きずられるようにして、杭もビニールテープもない、コーナーの内側へとKXのハンドルバーを左に倒していく。足下にはワダチになりきれない穴ぼこが、深く浅く、不規則に連なり、スロットルを開ける右手もついつい臆病になる。「それなら・・・」と、アウトにフロントタイヤを向ければ、辺りにばら撒かれた砕石が、大きく傾けた車体をすっとさらい出す。ただ、その不安定さに慣れてしまえば、でこぼこに手こずっているよりもよっぽど早くスロットルを開けられる・・・それも、かなり大きく。初めのうちは我慢してインを締めていたけど、やっぱり大きく回ったほうが気分はいい。薄っぺらな“食い付き”と折り合いをつけながら、コースの左端いっぱいを駆け抜けるKX。気を緩めたら、コースの外に吹き飛ばされそうなじゃじゃ馬な路面は、ホームストレートを背に奥へと延び、浅間の空へ抜けていきそうな斜面へとつながっていく。

<つづく>