鳥居峠

よく耕された黒土は雨に濡れて、その上を花のように開いたキャベツが、波を打ちながら列を作って並んでいる。畑の起伏に合わせて道もゆるやかに上下しては、ゆっくりと高度を下げていく。そして、まっすぐな坂を下りきると、道は国道144号線にぶつかり交差する。信号のない、見通しのいい交差点。パノラマラインは、この先、国道をまたいで“南ルート”になる。右に曲がれば鳥居峠を越えて長野県に入り、左へ行けば、吾妻川に沿って万座鹿沢口から大津、長野原、川原湯温泉とたどっていく。南ルートは、そのまま軽井沢モーターパークへと続いていた。

前にいた銀色のセダンが国道を越えていくのを見送って、おもむろにウインターを右に落す。それからbongoのハンドルを、ゆっくりと大きく右に回して、後ろに積まれた2台のフロントタイヤをきしませながら、のろのろと国道へと走り出す。広い国道は右から左へと傾斜が流れていて、ちょうど“逆バンク”のような不安定さで、bongoが直角に立ち上がっていく。峠を目指す道は、雪国のそれらしく、白くざらざらに光って見えた。

ツーリングマップル』に書かれているとおり、上州側の緩やかで穏やかな峠道を、アクセルペダルをそう踏み込むこともしないで流していたら・・・知らないうちに黒いミニバンが2台、真後ろにぴたりと着いていた。穏やかだけれど峠に向かう上り坂、少しずつ落ちていた速度に気づくのが遅れてしまった。あわてて右足を踏みなおすと、力を増した1.8Lのガソリンエンジンが、するっと加速を始める。空にベッタリと張り付いていた雲は消えてなくなり、夏の青を背に、白い積雲がむくむくと湧いている。峠が近づいていた。